電車の窓ガラスに映る自分を見ると、どんよりと重たい気持ちになる。

……なんで行くとか言っちゃったんだろ。

宗正さんに花火大会に誘われて、OKの返事をしていた。

宗正さんを好きになれば池松さんを忘れられる、そう考えなかったとはいえない。

酷い女だってわかっている。

だからなおさら、行きたくないのだ。

……でも、約束しちゃったんだし。

せめてゲリラ豪雨にでもなって中止になればいいと思うが、窓の外は憎いくらいに雲ひとつない青空だった。


「よく似合ってるね」

待ち合わせ場所に行くと、私を見つけた宗正さんはぱっと顔を綻ばせた。

「……ありがとうございます」

褒められるとなんだかこそばゆい。
今日着てきた浴衣は呉服部で宗正さんが選んでくれたのだ。

「これはオレからのプレゼント」

こそこそと宗正さんの手が私のあたまで動く。

「鏡、見てみて」

持っているコンパクトミラーを開いて見る。
三つ編みを添えて簡単にお団子にしてきた髪に、桜色の花のかんざしが揺れていた。

「詩乃(うたの)に似合うって思って。
それに今日の浴衣、ピンクの花柄だから合うかなって」

ぽりぽりと照れくさそうに宗正さんが頬を掻く。

「……今日は名前で呼びたいけど、ダメかな」

自信なさげに上目遣いでうかがわれると怒る気にはなれない。
以前は計算だと思っていたけれど、これはどうも池松さんと同じで天然らしい。

「いいですよ。
かんざし、ありがとうございます」

「うん。
行こっか」

ぱっと笑って歩き出した宗正さんについて歩く。
宗正さんは浴衣の私が焦らないでいいようにゆっくり歩いてくれるし、人にぶつかりそうになるとさりげなくガードしてくれた。
そういうのは慣れているなって思う。

屋台を見ながら進んでいき、適当に空いた場所でバッグからシートを出して引いてくれた。

「座ろっか」

「はい」

並んで座ったけれど、急になにを話していいのか困る。

「……宗正さんは浴衣じゃないんですね」

一緒に浴衣を見に行ったとき、宗正さんも紳士用の浴衣を見ていたから今日は浴衣だとばかり思っていた。
けれど実際はボーダーのVネックカットソーに黒のスキニー、それに白の長袖コットンシャツを腕まくりしている。

「……大河」

「はい?」

ぶーっと宗正さんが唇を尖らせ、首を傾げてしまう。