「……」

返事をした私と違い、ふたりは黙ったままふて腐れていた。
そのまま動こうとしないふたりにちっ、池松さんが小さく舌打ちする。

「さっさといけ!」

「は、はい!」

池松さんの鋭い声に、わたわたと村田さんと布浦さんはその場をあとにした。
ふたりがいなくなり、私の方など見ずに池松さんは足を踏み出す。

「行くぞ」

「……はい」

振り向かずに歩いていく池松さんの後を追う。

怒らせた。
あきれさせた。

後先考えなかった自分の行動を後悔した。


商談ブースで向かい合うように私を座らせ、池松さんははぁーっと大きなため息を落とした。

「どうした?
羽坂らしくない」

池松さんの言うとおり、自分らしくないとは思う。
普段の私だったら心の中で不満を言うだけで、絶対に本人にはぶつけなかっただろう。

でも、宗正さんに池松さんを莫迦にされた上に釘を刺され、さらには池松さんから宗正さんと付き合っていると誤解しているようなことを言われ、私の沸点はいつもよりもずっと低くなっていた。

「なにがあった?
また宗正で揉めたのか」

池松さんの言葉にせっかく鎮火した感情にまた火がつく。

「なんでそんなこと言うんですか!?
宗正さんは関係ないですよ!
私はただ、池松さんが莫迦にされてたから……!」

「あー……」

私が感情をぶつけると、池松さんは天井を仰いだ。
まるで聞かなきゃよかった、とでもいうかのように。

「あのな、羽坂」

少しだけ背中を丸めて猫背になり、池松さんは私と目を合わせないように俯いた。

「怒ってくれたのは嬉しいが、俺は羽坂にかばわれるほどいい男じゃない。
ただの……ただのおじさんだ」

顔をあげて私を見て、弱々しく笑った池松さんに心臓が握り潰される思いだった。

それは私の気持ちを知って、明確に拒絶するものだったから。