「雑用係は雑用係らしく、おとなしくしとけって」

「だよねー」

げらげら笑っている彼女たちにとうとう怒りが沸点を突破した。
ガタン、わざとらしく大きな音を立ててシュレッダーのゴミ箱を戻すと、おそるおそるといった感じで、村田さんが顔を出した。

「……なにも知らないくせに」

「なに?」

村田さんと布浦さんは怪訝そうだが、私は怒りで全身の血液が沸騰していた。

「なにも知らないくせに!
池松さんがいつも、どれだけあなたたちに気を遣っているかわかりますか!
きっといまの話を聞いても『しかたねーなー』って笑うんですよ、池松さんは!
そういう人なんです!
それに、奥さんのことだって凄く愛されてて!
なのにそんなこと言うの、酷すぎます!」

一気にまくし立ててもまだ気が収まらなかった。
お腹の中に火がついたかのように熱い。
あたまも燃えるようだった。

「はぁ?
そんなの、知らないし」

あきれている村田さんにさらに感情はヒートアップしていく。

「池松さんだって憎まれ役なんてやりたくないですよ!
でも、誰かがしないといけないことだから!
誰かがちゃんと、だめなことはだめだって言わなきゃいけないから!
なのにどうして、そんなふうに言うんですか!?」

「ちょっと、やめてよ!」

詰め寄り、私が胸をドンと叩き、村田さんは困惑している。

悔しい。
悔しくて悔しくて涙がぽろぽろ落ちてくる。

「池松さんのことなんてなにも知らないくせに」

「ちょっとやめてって!」

再び胸をどんと叩くと、思いっきり押しのけられた。

「おっと!」

後ろによろけ、受け身も取れずにこけるのを覚悟した瞬間、誰かが私を支えてくれる。

「さっきから騒がしいな、君たち」

こわごわ見上げると、池松さんの顔が見えた。
笑っている、けど眼鏡の奥の目は怒っている。

「だって、羽坂さんが」

「ねえ」

村田さんと布浦さんは目配せしあい、ばつが悪そうに視線を泳がした。

池松さんの支えからひとりで立つ。
あんなに燃えていた感情は、一気に鎮火していった。
いくら池松さんの悪口に腹が立ったからって、私はなんてことを。

「話はどちらからも聞く。
君たちは会議室で待ってろ。
羽坂は俺と一緒に来い」

「……はい」

「……」