会計をすませ足早に店を出た私を宗正さんが追ってきて、肩を掴んで振り向かせた。

「……確かに池松さんはおじさんですけど。
そういう言い方は失礼だと思います」

池松さんを莫迦にする宗正さんに酷く腹が立っていた。
だいたい、ここの職場の人はみんな、池松さんを軽く見過ぎなのだ。

「池松さんだけですよ、社員さんに当たられてへこんでる私を励ましてくれたの。
いつもいつも気遣ってくださって。
池松さんを悪く言わないでください」

「その、……悪かったよ」

怒られたわんこのようにうなだれると、宗正さんは上目遣いで私をうかがってきた。
そういうのはなんか、言い過ぎたかなって気になってくる。

「わかったならいいんですよ」

「うん、ごめん。
それで。
……羽坂ちゃんは池松係長が好きなの?」

「……は?」

気を取り直して一歩踏み出した足が止まる。

緊張で震える身体でゆっくりと振り返ると、じっと宗正さんが私を見ていた。

「す、好きとかそんなんじゃなくて、ただ尊敬してるっていうか、そんな感じですよ」

声がみっともなく上擦る。
コンビニの袋を握る手はじっとりと汗ばんでいた。

「なら、いいんだ。
ほかの恋なら応援してあげられるけど、池松係長は無理だから。
だって、あの人は結婚してるからね」

目尻を下げてにっこりと宗正さんが笑い、ドスッと胸にナイフが刺さったような衝撃を感じた。

……宗正さんは知っていて、釘を刺した。

自分でもわかっているのだ、相手は好きになってはいけない相手だと。
けれど人から指摘されると、さらに悪いことをしている気持ちになった。



せっかくラムネアメをネタに池松さんと話せるかも、そんなうきうきとした気分だったのに、すっかり沈んで職場に戻る。

……なんで池松さんなんて好きになっちゃったんだろ。

ごそごそとパッケージを開けて口に入れたラムネアメは、味が違うとはいえパインアメと同じでどこか懐かしい味がしてほっとする。

「羽坂、いいもん食ってんな」

お昼休みが終わるまでのわずかな時間、ラムネアメを舐めながらぼーっと考えていたら、当の池松さんから声をかけられて焦った。

「それ、期間限定のラムネアメだよな。
俺、まだ買いに行けてなくてさ」

嬉そうに笑っている池松さんが可愛くて、ついつい顔が綻んでしまう。

「食べますか」

「いいのか?」

うきうきと袋の名からひとつ取り、池松さんは早速、口の中にぽいっと放り込んだ。