「んー、オレは羽坂ちゃんの作った弁当が食べられるってだけで満足だけど?」

ぱたぱた振られている見えないしっぽが可愛すぎる。
池松さんを好きになっていなければ、よろめいたかもしれない。

「ごちそうさまでした」

宗正さんは完食して、行儀よく手を合わせた。

「羽坂ちゃん、美味しかった。
弁当箱は洗って返した方がいい?」

小首を傾げてくるのは計算なんだろうか。
あざとすぎる。

「別にそのままで……」

「羽坂ー、君、お昼……」

コンビニの袋を掲げた池松さんだったけれど、私の隣に座る宗正さんと、机の上に載ったままになっていたコンビニの袋に、言葉を途切れさせた。

「……昼メシは食ったみたいだな」

「……はい」

コンビニの袋を下ろして曖昧に池松さんが笑い、ひんやりと汗が出てくる。

「池松係長、遅いですよー。
オレがしっかり、羽坂ちゃんに昼メシ食べさせました」

宗正さんは笑っているけれど、目が笑っていない気がするのは気のせいだろうか。

「そうか。
よけいなお世話だったな」

違うんです、そう言いたいのに声にならない。
それに説明したところでそれは、私が池松さんが好きだと告白しているのにほかならない。

「……気を遣っていただいてありがとうございました」

ぎゅっと拳を強く握り、表情を見られたくなくて俯いた。
池松さんに誤解された、けれど説明できない自分が恨めしい。

「いや、よかったな」

そんな淋しげな顔で笑わないでください。
私と宗正さんはなんでもないんですから。

けれどいくら心の中で叫んだところで、池松さんには聞こえない。

――聞こえてはいけない。



宗正さんが私にかまうようになってから気を遣ってか、池松さんはあまり私にかまわなくなった。
そういうのは私を悲しくさせる。

「羽坂ちゃん最近、元気ない?」

お昼ごはんを食べていたら、心配そうに宗正さんに顔をのぞき込まれた。

「え?
そんなこと、ないですよ」

無理に笑って笑顔を作る。

最近お昼は宗正さんと食べるようになっていた。
私のお弁当に合わせていつも、コンビニでおにぎりやなんかを買ってくる。

「そう?
羽坂ちゃんが元気ないと、オレ、悲しくなるんだよね。
そうだ今日、飲みに行かない?」