「似合ってるじゃないか」

「……ありがとうございます」

池松さんに褒められると嬉しくて、頬に熱があがっていく。
それにそういう池松さんも濃紺のスラックスに細かいストライプの、ワイドカラーのボタンダウンシャツをあわせていて、おしゃれだ。

「あー、池松係長と羽坂ちゃんが仲良くしてるー。
オレも混ぜてくださいよー」

私と池松さんが話しているのを見つけた宗正さんがすぐに寄ってくる。
こっちは黒チェックのボタンダウンシャツで、相変わらずの可愛さアピールのようだ。

ちなみにふたりとも長袖を袖まくり派で、ポイント高し。

「なんの話してたんですか?
あ、今日の羽坂ちゃん、いつもと雰囲気違って可愛いね」

へらっと笑う宗正さんは計算だとわかっていても可愛い。
そういうところが女性に人気なのはわかる。

――けど。

同じ年くらいかと思ったら、三つも年上なのは驚いたけど。

「ありがとうございます」

宗正さんには愛想笑いを返しておく。
それくらい、この人の可愛いは軽いから。

あれから、宗正さんはちょくちょく絡んでくるようになった。
その意図がわからないほど、私だって鈍くない。
けれどこんな地味な私のどこがいいのか理解できなかった。

「羽坂ちゃん、今度デートしようよ、デート。
前に森迫のオバサンに襲われてここ怪我したの、オレのせいなのにお詫びしてないし」

ちょんちょん、うっすらと痕の残る私の左頬と同じ自分の左頬をつつき、目尻を下げてにっこりと宗正さんは笑った。

「……考えて、おきます」

ちらちらと池松さんをうかがってしまう。
所在なさげに立っていた池松さんだけど、目があうとよかったなとでもいうのかにこっと笑った。

ふたりがいなくなり、はぁっと小さくため息をつく。

池松さんにヤキモチを妬いてほししいとはいわない。

でも少しくらい宗正さんに迫られている私に不快になってくれると嬉しい、とか思うのは高望みなんだろうか。
せめて、デートを勧めるようなことはやめて欲しい。
それに宗正さんにかまわれるのはそれはそれで問題があるのだ。

「悪いんだけどぉ、これの値札はずし手伝ってくれなぁーい?」

隣のあいている机に持ってきたパッキンをドン!と置き、その不快なしゃべり方と同じ顔でにたりと布浦さんは笑った。

今日は経費の締めで事務作業が忙しい。
できれば、余分な仕事は断りたい。

「あの……」

「暇でしょぅ?
男に媚び売ってる時間があるくらいなんだからぁ。
あ、それ、今日中だからぁ。
よろしくぅー」

にやぁっといやらしい笑みを布浦さんが浮かべ、心の中でため息をついた。
置かれた箱の中を見るとブラウスやスカートなんかならまだしも、キャミソールがパンパンに詰まっている。

……子供みたい。