私の不安は違う意味ですぐに的中する。

「羽坂です。
よろしくお願いします」

最初に派遣会社の担当の早津(はやつ)さんと共に挨拶に行った外川(とがわ)部長は、でっぷりとしたお腹に脂ぎった顔をしたおじさんだ。
面接で会ったのはこの外川部長だけだったので、まさか職場があんなに華やかだとは想像していなかった。

「まあ、よろしく頼むよ」

外川部長は偉そうに胸……というかお腹をつき出した。

早津さんは最後まで、なにかあったらすぐに相談に乗るからと、心配しながら帰って行った。
そういうのは不安になるからやめて欲しい。

「君の直接の上司になる、本多課長に紹介するから」

「はい」

応接室を出て外川部長に連れられていった先では、うず高く書類やサンプルがデスクの上に積まれ、城壁のようになっていた。

「今日からうちに配属になった、派遣社員の羽坂君だ」

「羽坂です。
よろしくお願いします……」

不審に思いながらも挨拶してあたまを下げると、かさりと紙が動く音がした。

「……ああ、……聞いてますよ、……羽坂さん。
……羽坂さんですね」

壁の向こうからかろうじて聞き取れる声がする。
失礼ながら上からのぞき込んでみたら、小柄なおじさんが書類に判を押していた。

「……今日からしばらくは……僕が仕事を……教えます。
……よろしく……お願いします」

よわよわと笑う本多課長は太陽の下に出たら消えてしまうんじゃないかっていうくらい、影が薄かった。

「……朝礼の……時間まで……」

本多課長がすべてを言い終わらないうちに、始業のチャイムが鳴りはじめる。

「……朝礼で……紹介しますね」

はぁーっ、聞いているこっちが陰気なりそうなため息をついて、本多課長は席を立った。

「……このあいだ辞めた、……朝岡(あさおか)さんの後任の……羽坂さんです。
……羽坂さん」

朝礼でも本多課長はぼそぼそとしゃべり、聞き取りづらい。

「羽坂です。
一日でも早く仕事を覚えて頑張りたいと思っています。
よろしくお願いいたします」

前に立って挨拶すると、まばらな拍手しか起こらなかった。
全く歓迎されていないようで気が重い。
用が済んだので列の後方に戻る途中で。

「……頑張るだけだったら誰だって出来るってーの」

ぼそりと聞こえた声は酷く悪意に満ちていて、これから先の暗雲を予感させた。


朝礼が終わり、自分の仕事の合間に本多課長が私に仕事を教えてくれる。

「……入力が終わったら、……伝票をセットして……それから……」

「すいません、なにをセットしたらいいんですか」