ゴールデンウィークがあけると季節は夏めいてくる。
扱っている商品のほとんどが夏物に変わったから、よけいに強く感じるのかもしれないけど。

「ねえ!
カタログ送っといてって頼んだの、どうなってるの?」

つかつかと寄ってきた新本さんのスカートにはグリーンにどぎついオレンジの花が描かれており、目がチカチカする。

「昨日、メール便で出したので今日着くはずです。
あれでしたら、追跡しますけど」

見上げると、なぜか新本さんはうっと言葉を詰まらせた。

「……先方に着いたら教えて。
至急で連絡取りたいから」

「はい」

用は済んだのか、新本さんは勢いよく振り返って足早に立ち去ろうとしたけれども。

「おっと」

「邪魔!」

こっちにやってきていた池松さんに自分がぶつかりそうになったのに、ぎろっと新本さんは睨みつけた。

「カリカリしてんなー」

去っていく新本さんを目で追いながら、池松さんは苦笑いしている。

「羽坂、頼まれごと聞いてくれるか」

持っていたプリントの束を私の前に置くのはかまわないんだけど、いまのはよかったのかな。

「池松さんの頼みだったらなんだって聞きますけど。
……でも、いまの」

「ああ、かまわない。
なんたっておじさんはここの雑用係だからな」

池松さんは笑っているけど、仮にも上司にあの態度はないんじゃないかな。

「んで、羽坂にお願いなんだけど」

「あ、はい」

不満を感じたところで一派遣社員の私になにか言えるはずがない。
それに池松さんは気にしていないようだし。
話題を変えられたこともあって、思考を切り替える。

「このプリント、三枚ワンセットにして封筒詰めしてくれないか」

持ってきたプリントを三種類に分け、見本のようにワンセット作って池松さんは封筒に詰めた。

「池松さんの頼みだったらなんでもしますよ」

「そう言ってくれるのはありがたい。
急がないから暇な時間を見つけてやってくれ。
お礼に今度、ステーキのうまい店へ昼メシに連れて行ってやるから」

くいっと池松さんが眼鏡をあげるから、思わずくすりと笑いが漏れる。

「はい。
楽しみにしています」

私に雑用を頼むのは当たり前なのに、こうやって気を遣ってくれるのは嬉しい。
しかも、照れながら。

池松さんが自分の仕事に戻ると、附箋に【カタログ到着確認。
新本さんに連絡】と書いてパソコンの隅に貼りつけた。
連絡を忘れてなにか言われるのは嫌だし。