「なにかご用ですか?」

誤魔化すように笑ってみせる。
池松さんははぁーっと大きなため息をつき、ちょっとだけ困ったように笑った。

「ほい、これ」

池松さんから差し出されて受けけ取ったそれは、事務用品申請の用紙だった。
しかも内容はポケットファイル十冊になっている。

「……あの、急ぎますか?
いま在庫、切らしてて……」

さっき村田さんに十冊もポケットファイルを渡してしまったせいで、残りは三冊になってしまった。

「いや。
さっきの村田の分、それで埋め合わせとけ」

「あ、ありがとうございます!」

勢いよくあたまを下げる。
池松さんは照れたようにサーモントブロー眼鏡のブリッジを、曲げた人差し指の関節でくいっとあげた。

「村田には俺から言っとくわ。
私物化の件もそれとなく」

「本当にありがとうございます……!」

「よせよ。
おじさんは当たり前のことをするだけなんだから」

また池松さんが眼鏡をくいっとあげるから、思わずくすりと笑いが漏れた。

「あとこれ」

ごそごそと池松さんはポケットを探り、私の前に手を突きだしてきた。
慌てて両手の平を揃えて上向きにして出すと、その上にパインアメが乗せられる。

「落ち込んだときは糖分補給。
元気、出せや」

にかっと笑うと池松さんはひらひらと手を振って行ってしまった。

……また池松さんに助けられた。

アメの小袋を開けるとぽいっと口の中に放り込む。
甘酸っぱいアメは確かに、私に元気を出させてくれた。



就活に失敗した私は大学卒業後、派遣社員として働き始めた。

前にいた建築会社の契約期間を満了し、この春から新しく派遣された会社はアパレル商社大手のマルタカだった。

「凄い……」

それが、私の第一印象。
配属されたレディースファッション部のほとんどが女性で、みなきらきらして見えた。

……私って場違いなんじゃ。

ついつい、自分の服装を上から下まで確認してしまう。

シンプルな白ブラウスにこれまたシンプルなベージュのフレアスカート。
髪型だっておとなしく、肩までの髪にワンカールパーマをかけただけ。

それに比べてここの女性は、普通の職場だったら絶対上司に怒られるし、同僚には煙たがれるだろうなってファッションの方が大半を占めていた。
まるで、ファッション誌から抜け出てきたような方々ばかりなのだ。

「やっていけるかな……」