「まあ俺も、人のこと言えないしな。
昼メシは一緒に食いに行こうぜ。
うまいスープカレーを出す店があるんだが、おじさんひとりだと入りづらくてな」

ぽりぽりと人差し指で頬を掻く池松さんは可愛い。

「よろしくお願いします」

「よかった」

笑って見上げると、池松さんも笑い返してくれた。



連れて行ってくれたお店は北欧風のカフェだった。
食器はすべて波佐見焼きを使用しているのだと池松さんが教えてくれた。
そういうところに詳しいのも、やっぱりファッションに関わる職業柄、なんだろうか。

「ごちそうさまでした」

「ん」

今日も池松さんがおごってくれた。
毎回、おごられるのは悪い気がするが、頑なに支払うと押し通すのも悪い気がする。
今度、違う形でなにか、お礼がしたいな。


会社までの道を並んで歩く。
池松さんはいつもと一緒で私の歩く早さに合わせてくれる。

「和佳(かずよし)」

かけられた声に池松さんが振り返る。
つられて振り返ると、赤に近い茶髪でマニッシュショートの女性が手を振っていた。

「そっか。
ここ、会社の近くだもんね」

にこにこ笑う女性は背が高く、かなりヒールの高い靴を履いているとはいえ、池松さんと並ぶと同じくらいだった。

「世理(せり)。
ひとりか」

「ううん。
待ち合わせなの」

会社の女性たちとは違った意味で自分の容姿がコンプレックスになりそうなほど、女性は美人だった。
シンプルな白のカットソーにミントグリーンのクロップドパンツを合わせただけだが、スレンダーな身体によく似合っている。
そしてクラッチバッグを抱える左手薬指には指環。

――池松さんと同じ。

「和佳、この子は?」

「ああ、会社の子で羽坂」

「どうもはじめまして。
池松の妻の世理です」

にっこりと笑うと女性――世理さんはますます美人だった。
女の私でも見惚れてしまうくらいに。

「あっ、羽坂、です。
いつも池松さんにはお世話になっております」

見とれていた自分が恥ずかしく、慌ててあたまを下げる。
世理さんはおかしそうにケラケラと笑った。

「可愛いわね、この子!
ペットにして可愛がりたいくらい」

「……はい?」

世理さんの両手がわしゃわしゃと私のあたまを撫で回す。
髪がぐしゃぐしゃになって困るし、なにを言われているのか理解できない。