おじさんは予防線にはなりません

「はい」

森迫さんから受け取ったクッキーの箱を傍らに積む。

他にも数件、配っておいてくれとお菓子の箱を受け取っている。
シンガポール、ハワイ、北海道、沖縄などなど。
おみやげを配ることで私はここにいってきたのよと自慢したいんじゃないかと思うのは……考えすぎ、かな。

「おー、しばらくはおやつに困らなさそうだな」

ふらりとやってきた池松さんはお菓子の箱を手に取り、しげしげと見ている。

「こういうのは性格が出るよな。
気配り上手な奴は配るときを考えて個包装になってる奴にするし、なんも考えてない奴は……ほら」

差し出されたのは数少ない男性社員でしかも若手の、白沢さんが帰省して買ってきたカステラだった。

「これなんてわざわざ切らなきゃいけない」

「うわっ、面倒だな……」

「心の声、出てるぞ」

にやにやと池松さんに笑われて、頬が熱くなってくる。

「……すみません」

「別にかまわない。
俺だって面倒だって思うもん」

カステラの箱を元に戻し、ごそごそポケットを漁って池松さんは私の方へと拳を突き出した。

「まあこれでも食えや」

手を出すと、いつも通りパインアメがのせられる。

「ありがとうございます」

「ん」

私が受け取り、ぽいっと自分の口にも池松さんはパンアメを放り込んだ。

前から思っていたけど、なんでいつもパインアメなんだろ。
ちょっと気になる。

「今日は昼メシ、一緒に食いに行かないか。
どうせ弁当、持ってきてないんだろ」

少しだけ俯いて、池松さんはくいっと眼鏡を押し上げた。

「なんで知ってるんですか?」

確かに今日、お弁当は持ってきていない。
けれど、池松さんにそんな話は一言もしていなかった。

「ピンクの花柄のバッグがない日は弁当がないんだと気づいた。
今日は持ってなかっただろ」

ピンクの花柄のバッグはお弁当用のサブバッグだ。
いつもその中にお弁当と水筒を入れてくる。

でもそんなのがわかるなんて、池松さんって人をよく見ているんだな。

「……昨日、なかなか眠れなくて。
起きたらぎりぎりでお弁当作る時間がなかったんですよ……」

滅多にない長い連休、夜遅くまで起きていてお昼まで寝る生活をしてしまったせいか、昨晩はなかなか眠れなかった。
早く寝なきゃって思えば思うほど目が冴え、寝付いたのは結構遅く。

「休みのあいだ、だらだらしてたんだろ」

「……うっ」

意地悪く池松さんの唇が歪む。
図星なだけに言い返せない。