化粧崩れだとか汗ジミだとか臭いとか。
みっともなくならない程度に気をつけてはいるけれど、いまいるところではさらに気をつけないと、小さなことでなにか言われそうだ。

「そういえばさ……ってもう着いたから、続きはあとでな」

カランカラン、明るい音のドアベルを響かせて入ったお店は、レトロな喫茶店のようだった。

「いらっしゃいませー」

すぐにお冷やとおしぼり、メニューが出てくる。
メニューを広げるとまるまる一ページコーヒーメニューに続いて、ハンバーグにナポリタン、玉子サンドと少し懐かしいようなメニューが並んでいた。

「基本、なんでもうまいんだけどな。
一番のお勧めはハンバーグ」

このあいだ言っていた、〝うまいハンバーグを食べさせる店〟というのはここのことなのだろう。

「じゃあ、ハンバーグにします」

「うん、そうだよな。
……すみません」

池松さんが呼ぶとすぐに店員がやってきた。

「ハンバーグをランチセットで二つ。
あと、食後にコーヒー。
本日のお勧めで」

「かしこまりました」

店員がメニューを下げ、私の視線に気づいたのか池松さんはいたずらがばれた子供のようににやっと笑った。

「ここはコーヒーもうまいんだ」

そうなんだろうとは思うけど。

――ううん。
いろいろ考えないで、素直におごられておこう。

しばらくしてサラダにライス、ハンバーグが運ばれてきた。
ハンバーグは鉄板の上にのせられており、それだけでおいしそうだ。

「いただきます」

ナイフを入れた途端、じゅわりと肉汁があふれてくる。
ぱくりと口に入れると、肉汁とかかっているデミグラスソースが絶妙に絡み合い、はっきりいって最高だった。

「……!」

「な。
うまいだろ?」

あまりのおいしさにぱくぱく食べている私を見て、池松さんは満足そうに笑っている。

「あんまり人には教えたくないんだが、羽坂は特別な」

ふと引っかかってナイフフォークを持つ手が一瞬止まる。

池松さんは私をちょくちょく誘って、ふたりで食事に来るけどいいのだろうか。

それにいま、特別だとか。

池松さんに下心がないのはわかっている。
ただ単に私を労ってくれているだけだって。

でも、池松さんは既婚者で奥さんがいるのだ。
もし変な噂がたったら困る、なんてことはないのかな。

「その。
池松さんは、あの、私と噂になったらとか、その、」