おじさんは予防線にはなりません

大河が最近、取引をはじめた、アメリカの会社の社長さんと付き合っているのは和佳さんか聞いていた。
しかもタイプは、私と全く反対らしい。
意外、だけど裏表のない明るい人みたいだから、そういうところがいいのかも。

「辞めてアメリカ行くのかと思ったら、しばらくは別居生活らしい。
奥さんの方が日本で生活したいらしくて、仕事を整理してこっちで生活するんだってよ」

「へー、そうなんですね」

よかったと思う、こんな、大河の気持ちを弄んでいた私なんか忘れて、いい人に巡り会えて。
大河には幸せになってほしいから。


こうして私は、大河から喫茶店に呼びだされたというわけだ。



大河の結婚式当日、空は抜けるくらいの晴天だった。

「いい天気でよかったですね」

「そうだな」

私が転ばないように、気遣いながら和佳さんは歩いてくれる。
少しでもつらそうだと、すぐに座れるところを見つけてくれて、座らせてくれた。

「大丈夫か」

「平気です」

きっと子供が生まれたら、和佳さんはいいパパになると思う。
積極的にお父さん教室にも通っているし。

「詩乃、今日は来てくれてありがとう」

大河がにへらと、締まりのない顔で笑う。
それはとっても幸せそうで、私も嬉しくなった。

「あ、池松課長。
オレ、池松課長と違って甲斐性無しじゃないから、ちゃんと結婚式挙げるんですよ!
しかも二回も!!
凄くないですかー」

ん?
なんでここまできて、大河は和佳さんと張り合っているんだろう?

ちなみに二回というのはアメリカと日本、どちらともでも挙げるからだ。

「あー、凄い。
凄いなー。
宗正にしては凄い」

あの、和佳さん、完全に棒読みなんですが……。

「素直に敗北を認めたらどうですか」

ごめん、大河。
さっきから余裕で構えている黒ラブに、キャンキャン吠えているミニチュアダックスにしか見えない。

「敗北もなにも、詩乃を幸せにできるのは俺だけだからな」

くいっ、和佳さんが中指で眼鏡を上げる。
そういうのは……嬉しすぎます。

「い、いまに見てろよ!
リズを詩乃より、幸せにしてみせるんだからなー!」

キャインキャイン、まるでそんな鳴き声がぴったりな感じで、大河は駆けていってしまった……。

式は奥さんの希望で神社だった。
白無垢姿の奥さんに少し、憧れた。
結婚式はしなくていいって言ったものの、やはり着てみたかったなって。