おじさんは予防線にはなりません

すぐに、池松さん――和佳さんの家へ引っ越した。

「詩乃は座ってていい。
俺が全部やるから」

私のアパートに来て和佳さんは袖捲りし、やる気満々だけど……大丈夫、なのかな。

「でも……」

「大事な身体なんだ。
無理はするな」

私を座らせて、和佳さんはてきぱきと荷詰めをはじめた。
といっても、下着なんかを詰めてもらうのは気が引けるし、私じゃないと判断つかないことも多い。
でも、私がちょーっと重いものを抱えようとしただけで、すぐに止められた。

「ダメだって言っただろ」

「はい……」

でも、本当にいいのかな。
会社でも忙しかった次の日、和佳さんは腰が痛そうだった。

無事に荷造りは終わり、池松さんのマンションへ借りた車で運ぶ。
家具はほぼ全部リサイクルショップに頼んで処分した。
なので私の荷物はほんの少しだし。

荷物の運び入れも私はさせてもらえなかった。
荷解きしていても怒られたくらい。
過保護な和佳さんがちょっとおかしい。

「これで詩乃と夫婦だな」

くいっと眼鏡をあげた和佳さんの耳は赤くなっている。
そういうのは凄く可愛くて……幸せだな。

――ただ。

翌日、和佳さんは酷い腰痛で、湿布を貼ってあげたけど。



毎日は穏やかに過ぎていく。
まだ生まれてもないのに和佳さんは毎日、おもちゃやなんかを買ってきた。

「名前、どうするかな」

私を後ろから抱きしめて、愛おしそうに和佳さんがお腹を撫でる。

「そうですね……」

「どっちだって?
あ、いや、生まれるまで知らない方が楽しみが増えていいか?」

真剣に悩んでいる和佳さんはとっても可愛い。

「俺が子供を持てるとか夢にも思わなかった。
ありがとう、詩乃」

くぃっ、和佳さんが眼鏡をあげる。
きっと世理さんと結婚したときはいろいろ諦めていたのだろう。
そんな池松さんの夢を叶えてあげられて、嬉しいな。


幸せな毎日を過ごす。
本多課長がとうとう身体を壊して退職し、和佳さんは課長に昇進した。

「俺は課長の器じゃないんだけどな」

そんなこと言って笑っているけれど、あそこは和佳さんのおかげで回っていたようなものだから、向いていると思うんだけどな。