四月から派遣された会社は、とても……とても問題の多い会社だった。

「ねえ」

聞こえた声にこわごわ振り帰った先には、村田(むらた)さんが腕組みして立っていた。

「ポケットファイル、十冊申請した奴、まだもらってないんだけど」

第二ボタンまで外されたレーヨンのブラウスは、手を腰に身体を倒すと下着が見えるんじゃないかなって心配になってくる。

「その。
……一昨日渡しましたよね」

おずおずと見上げた瞬間、ぴしっとアイライナーの引かれた目がじろりと私を睨む。
途端に身体がぴくんと跳ねて、椅子の上で姿勢を正してしまった。

「申請書は出したよね。
なら文句ないでしょ?」

ぐんと顔を近づけられ間近になった村田産の耳で、大きなフープのピアスが揺れた。

「あ、ありま……せん」

おそるおそる立ち上がり、そろそろと後ろづたいに備品が置いてある棚まで移動する。
ガラス扉を開け、中から村田さんの要望通り十冊、ポケットファイルを掴んだ。

「これでいいでしょうか」

私が差し出すと、真っ赤な爪の指がポケットファイルの束を掴む。

「最初からさっさと渡せばいいのよ」

赤い唇を醜く歪ませて笑い、村田さんは去っていった。

「……はぁーっ」

いなくなってため息が漏れる。

一昨日、後から申請書を書くから先にくれと、強引に村田さんからポケットファイルを持って行かれた。
今日、出されているのはその分の申請書なんだけど。
まさか、あんなことを言ってくるなんて。

「……どうやって数合わせよ」

村田さんがポケットファイルを私物化しているのは知っている。
だから、仕事で使う分以上がいるのだと。

でもたかだか一派遣社員の私になにか言えるはずもない。
そしてそのしわ寄せは当然、私にきて、私が本多(ほんだ)課長に怒られる。

もっとも、本多課長は陰鬱なため息をつくだけでなにも言わないとは思うけど。

「羽坂(はさか)」

「は、はい!」

どっぷり暗い沼に沈んでいたところに突然声をかけられて、背中が一気にピシーッと延びた。

「眉間にしわ、寄ってるぞ」

死角から現れた眼鏡の男――池松(いけまつ)さんは人差し指で自分の眉間をとんとんと叩いた。

「あ……」

思わず、確認するように自分の眉間にふれてしまう。
延ばすようにぐりぐりと少しだけ揉んで、指を離す。