「あのね……お姉ちゃん……あの……」

「行ってきまーす」
お姉ちゃんは穴の開いた靴下をはいたまま、玄関から出て行ってしまった。

やっぱりヤバいんだ
お父さんとお母さんがクビになったら、私の家はもっともっと貧乏になってしまう。これ以上貧乏になったらご飯も食べれなくなって家賃も払えなくなって、それから……それからどうなるんだろう。家族でホームレスになっちゃうのかな。家族でなれるのかな?橋の下のダンボールハウスで暮らしてるのは、おじさんばかりだ。おばさんもいるのかな?子供は見た事ないよ。家族バラバラになるのかな。

「そんなの嫌だよ」

目からボロボロ涙が溢れ、近くにあったハンカチで目を強く押さえてバタンとまた床に転がる私。

もう一度
ギュッと目を閉じるから
また開けたら
全てが夢であってほしい。

ごくごく普通の家でいいから、お母さんが仕事を休めてお姉ちゃんの入学式に行けて、焼肉はソーセージじゃなくてもう少し本物のお肉があって、たまに牛の肉があって、部屋がもう少し広くて、服もお下がりじゃなくて時々買う事ができて、お姉ちゃんの制服もお下がりじゃなくて新しいのがいい。手作りじゃないおやつもちょっと食べたい。天井はこんなヘンな古臭い壺が並んでるような天井じゃなくて白い綺麗な天井で……お父さんとお母さんはあそこのスーパーじゃない所で働いていて、美鈴ちゃんと別のクラスになってますように。

ギュッと目を閉じて、パッと目を開けるけど

やっぱり天井には古臭い壺が並んでいて、私が涙を拭いていたタオルハンカチはモモちゃんの靴下で、その靴下はお姉ちゃんと同じ場所に穴が開いていた。