「バカにかまってたら時間ないわ」
お姉ちゃんは壁の時計を見てそう言った。

一昨日の夜
台所でお母さんがお姉ちゃんに謝っていた。
『ごめんね。本当にごめんね仕事が休めなくて。卒業式には必ず行くから。仕事辞めても行くからっ!』
必死に謝るお母さんに、お姉ちゃんは『別にいいよ』って無理して笑ってたけど、こっそりその夜ベッドで泣いてたっけ。強がりなお姉ちゃん。

バタリと身体を横にしたまま、私はお姉ちゃんが歯みがきをして、私達の部屋と茶の間をバタバタ往復しながら身支度を整えるのを見ていた。意外と足が太かった。

「おねーちゃん」

「何?」

「お父さんとお母さんがさ、今の仕事を辞めたらヤバい?」

「んー?そりゃヤバいよ。うちら死んじゃうよ」

「死んじゃうの?」
そこでやっと私は起き上がり、靴下の穴を気にするお姉ちゃんに向き合った。

「だってお金が入らないでしょう。これからどこかに就職するにも正職員じゃなくてパートになるじゃん。今でも少ないのにおじさんの借金も払えなくなる。給食費も払えなくなるよ、うちら給食で栄養取ってんのにヤバくね?」

「ヤバい」

「それに深沢のスーパーを辞めるって事は、この町では暮らせないじゃん。あのハゲおやじが街のエラい人なんでしょう?あのおやじににらまれたらどこにも就職できないよ。引っ越すにもお金ないし、かなりヤバい」

お姉ちゃんの話を聞いてザワザワと心の中が騒ぎ出す。