始業式の日は新一年生の入学式もあるので午前授業で終わる。
帰りの会を終わらせて、私は逃げるように学校を飛び出して家にダッシュした。家に帰ると制服姿でテレビを観ながらカップ焼きそばを食べるお姉ちゃんと遭遇する。中学生は午後から入学式なんだ。今日から中学生のお姉ちゃん。気のせいか制服がブカブカしている。近所のお姉さんのお下がりだっけ。

「もう終わったの?」

「うん」
ダッシュしすぎて心臓がまだドキドキしている。ゼーゼーと肩で大きな息をして手を洗ってから手提げバッグのまま床に寝転ぶと、お姉ちゃんの靴下のかかとに穴が開いてるのを発見した。手を伸ばして靴下の穴に指を入れると「やめろー」って笑い出すので私も笑う。何度か繰り返してお腹が痛くなった時、私は「あーぁ」って天井を見上げて目を閉じた。

もう1度目を開けたら全部夢でしたーって事になってないかなぁ。木全 杏は2組じゃなくて3組でしたってならないかなぁ。ギュッと目を閉じてパッと目を開けたけど、見えたのは、いつもの壺の模様のようなくすんだ天井だった。

魔法使いになりたいなぁ……無理だけど。

「あんたも勝手に食べてね。私は入学式だから」
お姉ちゃんは立ち上がってカップ麺の容器を洗う。

「お母さんは?」

「仕事」

「お父さんも仕事?」

「当たり前」

「入学式はお姉ちゃんひとり?」

「だな」

「寂しくない?私が行こうか?」

「やめてくれー」
お姉ちゃんは濡れた手のまま寝ころぶ私を上から覗き、両手をパシャパシャと動かして私の顔を水まみれにするのでまた2人で笑った。