私も噂ばかりで、本人と話をするのは初めてだったけど、噂そのままに美鈴ちゃんは迫力があって怖かった。

「榊原君もそうだけど、あんたの親ってうちのスーパーで働いてるんだって?それも2人とも」

「そう……だけど?」
『ど?』の語尾を上げて、ちょっとだけ強く言ったのが自分なりの反抗だった。

「ふーん。それならぁー今日から杏は私の部下にしてあげる」
もったいぶったように美鈴ちゃんはそう言った。

「えー?嫌だよ。なんで私が部下にならなきゃいけないの?」

「当たり前でしょう。バカじゃない?あんたの親が私のお父さんの部下なんだよ。うちのお父さんはえらいんだから。あんたの親を辞めさせる事もできるんだから」

「それは違うと……思う」

「何が違うのよ!」
怒った時の先生より怖くて低い声を出す美鈴ちゃんに、私は背中を冷たいナイフで切られたような気分になってしまった。上手く言えないけど、寒くて痛くて怖くて口を金魚のようにパクパクするだけである。

「部下にしてあげる」
美鈴ちゃんはツンとした顔のまま、高そうなスカートをひるがえし自分の席に戻り、私は友達の『あーぁ捕まっちゃった』って気の毒そうな顔に囲まれて、半べそをかいていた。