「もう少し天井が高かったら放り投げるけど……」
ケーキを見ながら私がつぶやくと、確信したように美鈴ちゃんは小刻みに身体を震わせる。
「うそうそ。入って下さい」
優しい声で私が言うと、美鈴ちゃんはロボットのように動き出す。私と美鈴ちゃんがリビングに入ると、夫と他の人達は楽しそうに話をしていた。
「妻はこの街に住んでいたんだよ。ねぇ杏」
「ええ、小学校卒業まで住んでました」
私がそう言うとみんなは親しそうな顔をする。
「懐かしいでしょう」
「はい。小学校の時の友達と、さっきも電話で盛り上がってました」
美和ちゃんに教えてもらって本当に盛り上がった。
美鈴ちゃんの旦那様が夫と同じ会社で、美鈴ちゃんはご機嫌取りに必死の奥さんとして有名だって。だから今日絶対来ると思っていた。
「懐かしいですね。小学校の頃、ジャイアンキャラの女の子に目を付けられて、ランドセル持たされたのを思い出しました」
そう言うと美鈴ちゃん以外の人は笑う。
「飯田さんの奥さん、コーヒーの準備を手伝っていただけますか?」
私は美鈴ちゃんにお願いすると、他の奥さんたちはうらやましそうに美鈴ちゃんを見ていた。私はそれを無視して美鈴ちゃんとキッチンに入った。