直通のインターホンが鳴り、私が出るとお客さんが見えたのを教えてくれたので、案内するようにお願いした。

さて、勝負だ。

「楽しそうだね」
めんどくさそうな顔で彼は起き上がり、大きく伸びをする。

「そうでもないよ。年の離れた奥さんってなめられないように気合入れてる」

「それはないな、みんな君の機嫌を取るのに一生懸命になるから。そんな人達と付き合わなくていいからね」

「でも私の機嫌ひとつで人事が変わるとか、まさか思ってないでしょう」

「変わるよ。だから必死なんだ」
彼は甘えたように私を後ろから抱きしめる。これでもやり手の重役で社長から頼み込まれてこの街に転勤させられてしまった。本人としては退職まで優雅に私と都会で遊ぼうと思っていて残念がっていた。私の住んでた街は貴重な鉱物が山で採れ、その開発を彼の会社で扱うようになった。街に大きな支社もできて彼は支社長としての転勤だった。

「うっとうしいぐらい君も機嫌取られるから気を付けて。嫌なら無視しなさい」

「じゃ私が『あの人クビにして』って言ったら、クビにしてくれる?」

「おおせのままに」

「最低な支社長だね」

キスを仕掛ける夫を拒否して、軽く私から彼の頬に背を伸ばしキスをしたらインターホンが鳴る。夫はうんざりした顔で広い玄関に向かい、ドアを開くと高い声が聞こえてきた。

「初めまして、飯田の妻です。なんて素敵な高級マンションなんでしょう、さすが支社長です。これ、リクエストされていた駅前の老舗のケーキ屋のショートケーキです、私が朝から並んで買いました」
圧倒された夫の苦笑いが後姿から見えてしまう。奥さんたちも彼と私に気に入られようと必死なのだろう。