大好きなお父さんは5年前に病気で亡くなっていた。
進行が早いガンの一種で、亡くなる時も穏やかで優しい顔をしていた。

私は都内の大学を出て、京都を本社とする医療機器メーカーに就職していた。恋愛もしたけど結婚までにたどり着かず、大好きな京都の暮らしを満喫していた。

夫と出会ったのは2年前、京都の有名なお寺の前だった。
車を購入したモモちゃんの交通安全のお守りを買いに来たけど、連休のせいかすごい人で久し振りに人に酔いそうになっていたら、本当に酔ってた人がいてそれが夫だった。青ざめた顔でふらつきながら歩いていた男性の顔を見て、私は驚きながら近寄り「大丈夫ですか?」と声をかける。すると男性は「大丈夫じゃないです」って情けない顔で言ったので、不謹慎ながら笑ってしまった。今でもその時の事は話のネタにされている。

私より25歳年上の夫は有名企業の常務をしていて、ひと言でいえば洗練された上流階級の金持ちだった。会長の甥で昔からのお坊ちゃまで20年前に奥さんに浮気されバツイチになり、優雅に過ごしていた。気まぐれに京都に来て観光してたら体調が悪くなって私と出会い、そこから何度か会ってお付き合いが始まってプロポーズされてしまった。お母さんとお姉ちゃんとモモちゃんは彼の年令を考えて反対した。いくらなんでも25は離れ過ぎだろうって、でも彼を紹介するとみんな驚いてしまい、モモちゃんなんて穴が開くんじゃないかって思うくらい彼を見つめていた。

彼は亡くなった父と顔がそっくりだった。世の中には三人似た顔の人がいるというけれど、彼はその中の断然トップのひとりだろう。穏やかで優しい人柄も似ていて、家族は私の結婚を賛成してくれた。もちろん最初はお父さんに瓜二つで惹かれたけれど、今はそれだけではないと自信を持って言える。