「大きい荷物は片付いたから、あとはゆっくりやるよ」
私は大きな南側に広がる出窓に座り、足をブラブラさせて外の景色を見つめていた。
まさか、またこの街に戻ってくるなんて思ってもみなかった。
小学校卒業まで私はこの街に住んでいた。昔はこんなコンシェルジュ付の高級マンションなんてなかったはず。おしゃれなお店も高いビルも増えてきたが、遠くに見える大きな山と街を通る川の流れは変わらない。引っ越し荷物がまだ山積みで、これから夫の会社の人達が顔を出しに来る予定だけど、私は小学校からの友達の美和ちゃんと電話で話を弾ませる。
「うん遊びに来て来て、榊原君にも会いたいな」
振り返って広いリビングを見ると、夫はアイランドキッチンの奥にある冷蔵庫からビールを取り出しプルタブを開けていた。これからお客さんが来るのにもう……
「美和ちゃんごめんね。また連絡する、これからお客さん来るんだ……そうそう、本当に……笑っちゃうよね。報告するから、いやダメダメ今来るのはダメ……私も本当は怖いんだって、そこ笑うとこじゃない。放置するよ……『もったいない』じゃないって笑える」
夫はお気に入りのイタリア製ソファに身体を沈めて私を見て微笑む。そんな表情がやっぱり似ていると、今さらながら感じてしまう。私は美和ちゃんと近いうち絶対会う約束をして電話を切り、夫の元へ駆け寄ってビールを没収した。
「お客さん来るよ」
「ただ挨拶に来るだけだから、すぐ帰るよ」
次は私に手を伸ばし、引っ張られてそのまま夫の胸元に抱かれる形で倒れ込む。
「年の離れた可愛い奥さんを見に来るんだろう」
「ドレスでも着る?」
私の服装は一応ブランド物だけど、カジュアルなシャツと長めのスカートだった。髪はふんわりショートボブで胸元には夫から昨日プレゼントされたダイヤのネックレスが輝いている。引っ越し祝いプレゼントらしい。意味わからないプレゼントだ。