お父さん達がおじさんと、どんな話し合いをしたのか私達は知らない。おじさんとおばさんは話が終わって東京にそのまま戻った。次の日からもいつも通りのお父さんとお母さんだったから、私もお姉ちゃんもモモちゃんも普通の生活になっていた。節約生活は変わらないけどたまに本当の焼肉を食べたり、冷蔵庫にアイスが入ってるから、超貧乏から貧乏にレベルアップしたかもしれない。

私は美鈴ちゃんの家来をやめた。
美鈴ちゃんはすんごく怒って『杏のお父さんとお母さんをクビにする』って言ったけど、私は『いいよ』って言って自分の席で本を読む。
榊原君が「かっけー」ってほめてくれたけど、本当は心臓がバクバクして手が震えて本のページがめくれなかった。美鈴ちゃんは無視されて悔しがり、乱暴に自分の席に戻って行った。怖い怖い怖い……怖かった―。

でもやったよお姉ちゃん。
なんだかすごくスッキリした気持ちになって、今までの友達ともまた元に戻った。学校帰りは美和ちゃんと帰る。今度一緒に合唱クラブの見学に行こうねって約束もした。美鈴ちゃんは可愛いシールとかストラップを学校にこっそり持ってきて、周りにバラまいて友達っぽい子を何人か作っていた。でも私みたいな家来になってランドセルを持ってくれる子はいない。ランドセルふたつは重かったなぁ。教室でひとりでいることが多い美鈴ちゃんだけど、あいかわらず大きな声で自慢話はするし、わざとらしいし、先生の前ではいい子ぶってるし、人のちょっとした間違いを見つけたら目をキラキラさせて『ちがいまーす』とか言う強い女王さまだった。美鈴ちゃんの将来の夢はアイドルって言ってた。どんなアイドルになるか楽しみだ。