「私ね、美鈴ちゃんの家来にされてたんだ。逆らったらお父さんとお母さんをクビにするって言われて」

「えーっバカじゃないの?そんなのできるわけないじゃん」

「でも榊原君のお父さんは居酒屋さんの店長からチーフになって、給料下がったんだよ。美鈴ちゃんが自分のお父さんに言いつけたんだって」
ムキになって言ってしまう。

「ふーん。でも、もう家来にならなくていいよ。うちの貧乏生活もきっと終わるし、杏がスーパーのワガママ娘にイジワルされてるって知ったら怒って自分から辞めるかもよー」

「お母さんキレたら怖いもんね」
今日の交番も怖かったなー。おまわりさん驚いてたもん。

「それにお母さんとお父さん言ってたよ。スーパーの人手が全体的に足りないんだって。だから仕事も最近遅いじゃん。人手が足りないぐらいだもん辞められたらあっちが困るからクビにはならないよ。ってゆーか、どうでもいいけど、いっぱいお金返してもらって、本当の焼肉を食べたいよー」

「うん。ケーキも食べたい。駅前のプリムラのケーキが食べたい」

「あそこのショートケーキ美味しそう」

「持って帰りたかったなぁ。あのね、お姉ちゃん……」
踏まれたケーキを思い出して、私は美鈴ちゃん家の出来事をお姉ちゃんに聞いてもらった。貧乏菌が移るからずっと立たされたとか、下手なピアノを聴かされたとか、いつもランドセルをもたされてるとか、ケーキ踏まれた話とか。黙っていた美鈴ちゃんへの不満だけど、こうやってちょっとずつ聞いてもらうと心が軽くなる。でも、お姉ちゃんの心は私が軽くなった分、怒りで重くなっていた。

「ありえないっ!」
やっぱり怒った顔がお母さんに似てる。これこそ恐るべきDNA。

「もういいよ。明日から家来やめる」

「絶対やめろ。やめないとお母さんに言うからね」

「それはヤダ」

「おじさんさぁ、お父さんに仕事手伝ってもらいたいって言ってたじゃん。だから今のスーパー辞めてもなんとかなるから大丈夫だ」

「うん」

「お父さんいつも言ってるし『なんとかなる』って」

「うん」

「絶対やめろよ」

「うん」




ばいばい。美鈴ちゃん。

もう自分のランドセルは自分で持ってね。