そんな様子を黙って見ている大人たち。
お姉ちゃんとモモちゃんとお団子みたいにくっついてたら、おばさんが「杏とふたりで話がしたい」って言い出した。私はティッシュで涙を拭いてからおばさんの顔を見る。おばさんはこんな時も綺麗でジッと私を見ていた。本当のお母さんなんだ……私はうなずいてお姉ちゃんの手を離す。お姉ちゃんは涙でぐちゃぐちゃな顔でしかたなくだるそうに私から離れてくれたけど、背中に貼り付いた脱走したサルが離れない。お父さんが離そうとしたけど、モモちゃんは凶暴になって手を出すと噛みつく勢いだ。しょうがないからモモちゃんをおんぶしながら、私は狭い自分たちの部屋におばさんと入ってふすまを閉める。座る場所がないから二段ベッドの下に並んで座った。

本当のお母さんとツーショット……いや違う、背中にいるからスリーショット。

「ずっと会いたかった。ごめんね」

「いいよ」
『いいよ』って言うのも変な返事かな。わかんなくなってきた。

「お父さんの仕事が上手くいかなくて、夜逃げしか手がなかったの。必ず迎えに行こうと思って杏をお義兄さんとお義姉さんに預かってもらった」
私の頭を撫でようとするけど、モモちゃんが「ダメーっ!」って怒るからおばさんはあきらめた。超バリアだなモモちゃん。

「今やっと余裕で生活できるようになった。杏の下に妹がいるんだよ。お姉ちゃんに会いたがってる。本当の家族で暮らそう」

本当の家族って何だろう。

もし
私がこの家に預けられてなくて、すんごくいじめられていて『本当のお母さんが迎えに来てくれないかな』って思っていたら、おばさんの家にダッシュで行くだろう。本当の家族バンザイ!って大喜びで行くだろう。

モモちゃんの体温で背中があったかい。
お姉ちゃん泣いてくれたな。
あっちに妹がいるなら、おばさんもおじさんも寂しくないだろう。

魔法使いはいらない。


「私はここの家の子です」

はっきり私はそう言った。