うちは貧乏かもしれない。

貧乏の基準がわからないけど、有希お姉ちゃんに言わせると『めちゃ貧乏』らしい。
住んでいるのは冬は寒くて夏は暑すぎる築30年の団地だ。部屋は茶の間とあとふたつある。6畳の部屋にお父さんとお母さんとモモちゃんが寝て、4畳半の部屋に二段ベットを置いてお姉ちゃんと私で寝ている。4畳半にベッドを置いてタンス代わりの衣装ケースなども置いてるので、かなり狭い。でもお父さん達の部屋も人からもらったゴージャスなダブルベッドを置いているので、私達の部屋より狭いかもしれない。

服も靴もおさがり。おやつは手作り。ケーキは誕生日とクリスマスでそれもお母さんの手作り。サンタさんのプレゼントもお母さんの手作りだ。去年は折り紙の動物たちが私達の顔の横に置いてあった。モモちゃんは嬉しくて泣きながら喜んでいたけど、お姉ちゃんは別の意味で泣いていた。そしてそれをお姉ちゃんは冬休みの工作として学校に持って行って先生にいっぱい褒められた。本気出して作ったお母さんの作品はめちゃクオリティが高いってヤツで、お母さんは大喜びだった。

『自分の部屋が欲しい』
うらめしい顔で私を見てたまにそう言うお姉ちゃん。
私だって自分の部屋が欲しい。もし自分の部屋があったなら、大きなミントグリーンのクッションを置こう。ふかふかな白いラグマッドも置きたい。そこでマンガを読みながらゴロゴロするんだ。あぁ想像している時間が一番幸せだ。

どうして我が家は貧乏なのか。
それはお父さんが自分の弟の保証人になったからだ。

私が生まれてすぐ、お父さんの弟とそのお嫁さんである浩介(こうすけ)おじさんと文月(ふづき)おばさんは沢山の借金を残して夜逃げした。
それはもう見事な夜逃げで、誰ひとりしばらく気付かなかったそうだ。
浩介おじさんは色んな商売に手を広げ、広げすぎて手が閉じなくなって借金がパンパンにふくらんで、お人よしのお父さんが『形だけ』って言われてハンコを押したら、形も無くなるぐらい借金取りに巻き上げられました……っていうお話だ。

その借金の一部は今でもしつこく続いていて、お父さんとお母さんは必死に(お母さんはヤケになってるらしいけど)美鈴ちゃんのスーパーで働いている。