「美鈴って榊原が好きなんだって」

「えーーーっ!!」

帰りの会が終わり、ギャン泣きが止まらない美鈴ちゃんと榊原君は先生に残されたので、私はこっそり教室を出て美和ちゃんと一緒に歩いて帰っていた。美鈴ちゃんから解放されるって幸せだ。

「榊原は美鈴が嫌いだから、ざーんねん」

「知らなかった」

「みーんな知ってる」

自転車に乗ったおまわりさんと狭い道路ですれ違って「こんにちはー」って挨拶をする。おまわりさんはニコニコ笑って「まっすぐ帰るんだよ」って言ってくれた。平和だなぁ。美和ちゃんと楽しく歩いていたら、公園の入口あたりで大きな黒い車が停まっていて、その前には白いワンピースを着たおばさんが立っていた。

「あれって?」

「ふしんしゃ?」

美和ちゃんと『怖いから戻ろう』『学校に行って先生に話そう』『さっきのおまわりさん呼んでこよう』って言い合って、怖くて手を繋いでクルっと回れ右をした。

すると……。

「あーーんずーー」
美鈴ちゃんが走ってこっちにやって来る。げっ!もう終わったんだ。回れ右をした私と美和ちゃんは美鈴ちゃんと待ち合わせをしたように出会ってしまう。

「美和ちゃんどっか行って。杏は私と帰るんだから」
さっきまで恐竜泣きしてたのに、今はいつものツンとした顔に戻ってた。

「美鈴ちゃん。あっちにふしんしゃがいる」
「早く学校へ戻ろう」
美和ちゃんと早口言葉のようにそう言うけれど、美鈴ちゃんは「あぁ……あれは私のお母さんなの」公園の入口を見つめながら、美鈴ちゃんはわざと大きなため息をして私達にそう言ったのだ。