私に秘密を打ち明けてスッキリしたのか、美鈴ちゃんはそれからずーっと『私の本当のお父さんとお母さんはね……』の話ばかりしていた。
美鈴ちゃんの本当のお父さんとお母さんはドバイにビルを持っていたり、ハワイに別荘をもっていたり、宝石のベッドで寝ていたり……毎日変わるけど超お金持ちだって話はかわらない。本当はそんな話はあきちゃってるけど、ガマンして聞いていた。
お母さんも頑張ってるから私も頑張らなきゃ。

あと少しで夏休み
夏休みなったら美鈴ちゃんと離れられる。私はウキウキ気分で夏休みを楽しみにしていた。そしてある日の帰りの会で【ふしんしゃに注意しましょう】というプリントがみんなに配られた。

プリントには大きな車のイラストと、綺麗なおばさんのイラストが描いてあった。

「最近、学校の帰りに変な車がうろついてます。できるだけひとりで歩かないように。話しかけられても返事をしないように。人が多い大きな道路を歩くようにしましょう。さらわれそうになったら声を出して、声が出なかったら暴れて逃げましょう」

誘拐犯は綺麗なおばさんなんだ。
悪い人は怖いおじさんイメージだったから、ちょっと驚いてしまった。
うちは誘拐されても身代金が払えないから、誘拐されないと思うけど美鈴ちゃんは危ないかな。うるさいから誘拐しても犯人が大変かもね。

「美鈴が誘拐されりゃ―いいのに」
榊原君がつい声に出してしまった時、教室がシーンとなっていて美鈴ちゃんが泣き出したら先生がめちゃ怒って、帰りの会が遅くなる。美鈴ちゃんは恐竜のように泣いていた。