家に帰るとお母さんが先に帰っていて驚いた。台所から美味しそうな匂いがしている。
「どうしたの?」
仕事は?まさかクビになった?私のせい?
「お母さんお仕事は?」
「パートのおばさんが体調崩して、付き添って病院行ってたの。職場に戻ろうと思ったら杉下さんが『そのまま帰っていいよ』言ってくれたから、帰ってきちゃった。うちの職場は人の使い方が荒いから……」
杉下さんはお母さんと一緒に働いている優しいおばさんだ。
「うわぁ!ホットケーキだ!」
いい匂いがすると思ったら、大きなフライパンにキツネ色のホットケーキがふんわりと焼けていた。
「午後から休めるなら、有希の入学式に休みたかったな」
ちょっとだけ悲しい声を出すので、私はギュッとお母さんに抱きついた。
「5年生が甘えてるー」
そう言いながらお母さんは私をギュッと抱きしめた。お母さんはあったかくてホットケーキの匂いがする。
「クビじゃなくてよかった」
そう言ったらお母さんは声を出して笑う。
「クビになったら生活できないもん。お母さんバリバリ働いて頑張るからね」
グリグリと頭を撫でられた時、美鈴ちゃんの話を思い出した。美鈴ちゃんは本当のお母さんと離れてるのか。そう思うとあんな美鈴ちゃんでもかわいそうになってしまう。
「お母さん」
「何?」
「私も頑張る」
美鈴ちゃんは嫌いだけど、お父さんとお母さんのために私も頑張る。
「杏はいつも頑張ってるね」
「お母さん大好き」
「お母さんも杏が大好き」
モモちゃんの前ではお姉さんしてるけど、今の私は赤ちゃんみたい。
「内緒でクーラー入れて、焼きたてのホットケーキ食べよう」
「うん」
お母さんもお父さんも
お姉ちゃんもモモちゃんも大好きだよ。