それでも
あのケーキ踏みつけ事件以来、美鈴ちゃんは無茶を言わなくなった。いばったり悪口言ったり命令したりは変わらないけど、自分の家に私を誘わなくなったからラッキーだ。
あと少しで夏休みだから、ガマンしよう。夏休みになったら美鈴ちゃんはお母さんとディズニーランドと原宿とピューロランドと韓国に行くそうだ。
「原宿でスカウトされたら、そのまま東京に出ようと思うんだ」
学校からの帰り道、いつものように自分のランドセルを私に持たせて、涼しい顔で美鈴ちゃんはそう言った。私は「ふーん」って返事して、二人分の重たいランドセルを両手で持ってフラフラしてしまう。今日は授業が多くてランドセルが重い。
「杏に私の秘密を教えてあげようか?」
身体をクネクネさせて私に聞いてきたから「別にいいよ」って返事をする。
「絶対誰にも言わないでね」
怒ったように美鈴ちゃんは強く言う。自分が話したいんだね。
「私はあそこの家の娘じゃないの」
「えっ?」
「私のお父さんとお母さんは別の人なの。私は生まれた時に今の家に預けられたの」
声をわざと弱くして、ポケットからピンクのハンカチを出して自分の目を拭いていた。
「美鈴ちゃん。貧乏の家の子供だったの?」
「杏と一緒にしないでよ。本当の私のお父さんとお母さんは大金持ちで、外国に住んでいて、私に会えなくて寂しくて泣いてるんだから」
「今だって金持ちだよ」
「こんなちっぽけな金持ちじゃなくて!もっともっとお金持ちで、お母さんなんてすっごい綺麗なんだから。モデルから女優さんになったんだよ」
「何ていう名前の人?」
「だから、そんなのはいいのっ!!!」
めちゃ怒られてるじゃん私。なんでだろう。