深谷美鈴ちゃん(ふかたに みすず)は町の大きなスーパーの社長の娘だ。

美鈴ちゃんのお父さんは町の大きなスーパーと、居酒屋とクリーニング屋さんを経営している。美鈴ちゃんのお屋敷には外車が3台もあって、大きなモフモフした犬と小さなチワワも飼っていた。お屋敷のトイレが3つあるって噂も聞いた。

美和ちゃんがお誕生会に呼ばれた時に教えてくれたのは、大広間にはシャンデリアがキラキラしていて、美鈴ちゃんの部屋はピンクで、廊下がめちゃめちゃ長かったそうだ。お昼ご飯は庭でバーベーキューで、シェフが目の前でお肉を焼いてくれたらしい。そのお肉は厚みがあって弾力があって、口に入れると肉汁がジュワーッと広がって溶けるように柔らかかったとか。美和ちゃんの話を聞くだけで、私のお腹はグーグー鳴り美和ちゃんに笑われた。

昨日、うちも焼肉だった。
中学生になった有希(ゆき)おねえちゃんと5年生になった私。保育所の年中になったモモちゃんの進学&進級祝いで、中古で買ったホットプレートを家族で囲み、お母さんの作ったおにぎりと一緒に黙々と食べていると

『本当の焼肉が食べたーい』
いきなり有希お姉ちゃんは叫びだした。
ホットプレートをひっくり返しそうな勢いに、驚いた私は妹を抱きかかえる。
『焼肉でしょう』ヘラヘラと笑って答えるお父さんと『嫌なら食べるな』ってきつく言うお母さん。
ホットプレートの上で赤いソーセージと豚バラ肉とハンバーグもどきが湯気を立てていた。
『ほらっ!ひとり一枚の豚肩ロースあるぞ。有希はお父さんの分も食べていいからね』『ずるいーモモちゃんもー』『モモちゃん危ない』『杏、モモを押さえてなさい』『豚じゃなくて牛が食べたいの!』『牛より豚の方がビタミンが豊富なんだよ』『だから嫌なら食べるな』『モモちゃん手を出さないでっ!』

『ちゃんとした焼肉がいいの!!!貧乏なんて大嫌いっ!!!』

お姉ちゃんの叫びで始まり叫びで終わる。
ほぼ月に一度ある、我が家の行事みたいなものだった。