次の日
杏仁豆腐の為に学校へ行く。
『休み時間は必ず私の机に来なさい』美鈴ちゃんに命令されてたけど、今朝は無視してまっすぐ自分の席に座る。美鈴ちゃんがチラチラと私を見ても無視をした。私は図書館から借りた本を机に出して朝読書を始める。
「今日は美鈴んとこ行かないの?」
榊原君が国語のプリントにガシガシと消しゴムをかけていた。2時間目の宿題を今頑張ってる。プリントが消しゴムに負けて破れそうだ。
「行かない」
榊原君のお父さんは美鈴ちゃんのお父さんの居酒屋さんで働いているのに、どうして部下でも家来でも奴隷でもないんだろう。
「榊原君は、美鈴ちゃんに『私の部下になれ』って、言われなかった?」
ずっと気になっていたから聞いてみたら、榊原君は手を止めて私の顔をジッと見る。
1・2年生の時に一緒のクラスだった榊原君。私より背が低かったのにいつのまにか私より大きくなってる。顔のぽちゃぽちゃ感もなくなっていて別の人みたい。
「言われたけど無視した」
ロボットのような声を出す。
「そっか、無視していいのか」
榊原君は強いなぁ。さすが男子だよ。私も無視してもいいのかもしれないね、榊原君の背中からパーッと光が見えそう。嬉しくて気持ちがジェットコースターみたいにグングン上に向かって行く気分だ。
「無視したらガッツリに怒られた」
怒られた?
「社長に『あんたの息子さん、うちの娘にイジワルするんだって?』とか言われたみたいで、うちのとーさんは店長から普通のチーフになっちゃって」
口をひん曲げて榊原君は力強く消しゴムをかけたので、プリントがとうとう破れてしまった。
「あーぁ」「あーヤベ」
私は自分が悪い気がして、慌てて先生の机からテープをちぎって、榊原君のプリトの裏に貼ってごまかした。