『考えてもわからない時ってありますよね。そんな時は流されてもいいんですよ。流されてから考えましょう』
テレビ番組が変わっていた。
テレビの中で笑点の落語家さんみたいな着物を着たおじさんが、タレントを辞めてカレー屋さんになったお兄さん夫婦にアドバイスをしていた。落語家もどきはオーラが見える偉い先生らしい。

お兄さん夫婦はキラキラした顔で落語家もどきの顔を見て、落語家もどきはふっくらとした手でお兄さんの手を握る。その指にはお兄さんの表情よりキラキラした高そうな石の指輪がゴロゴロしていた。お兄さん達はお店を開くのに借金を重ねて不安になってるけど、前へ進めと落語家もどきが言ってるらしい。そんな言葉よりその指輪をお兄さん夫婦にあげたらいいのに。金持ちってわかってないよね。ケチだよね。心にもない事を言って貧乏人をその気にさせる最低なヤツらだ。泥棒ネタの小遊三さんの方が好きだ。

「アイスたべたーい」

「アイスはないよ。来月の給料日に絶対買ってあげる」

「モモちゃんはアイスがたべたーい!」
モモちゃんは眠たいのかご機嫌が悪く、床に引っくり返ってダダをこねる。
こんな小さいモモちゃんも、貧乏ストレスが溜まってるのかな。

こんなんで仕事をクビになったら
もっと貧乏になってしまうんだろう。

ギュッと目を閉じて上を見上げる。
『魔法使いさん。今の貧乏生活が全部ウソだったってオチにして下さい。美鈴ちゃんを消して下さい』一生懸命お願いをしてからそっと目を開けるけど、壺の天井は何も語らない。

魔法使い召喚ならず。

「モモちゃんもやるー」
私の様子を見ていたモモちゃんが機嫌を直して隣に並び、ギュッと目を閉じてパッと開いて「楽しいねー」って笑ってた。

「宇宙人でも呼んでるの?」
お母さんに聞かれて「魔法使いを呼んでる」って答えたら「あーそれ呼べたら教えて!明日のテストの内容教えてもらうから」と、お姉ちゃんが部屋から叫んでた。全部会話を聞いてたな。お姉ちゃんこそ魔法使いじゃん。気の抜けた炭酸気分になってきたので、お風呂にでも入ろうかと着替えを取りに部屋に行こうとしたところ「杏」ってお父さんが私の名前を呼んだ。

「学校休んでいいからね」
優しく笑って私の頭をくしゃっと乱暴に撫でた。

「うん」
私は照れたように笑って自分の部屋に逃げてった。

美鈴ちゃんのイジワルがこれ以上ひどくなったら、学校休もう。負けるみたいで嫌だけど、休んでから考えよう。明日は杏仁豆腐だから行くけど。
うんうんとうなずきながら思うと、ちょっと心の中が軽くなる。
さすがお父さんだ。お父さん大好き。