君に救われたのは、柔らかな春陽が温かく照る日だった。



君と出会った日同様、河原の桜並木で桜の木々を見上げていたとき、『橘、』と声を掛けられた。


『またナンパ?』と冗談を言えるくらいには仲良くなれた。
『ちげーよ!』と必死に否定する君としばらく戯れたあと、河原に寝転がってポツリと呟いた。



『ここ、"元彼"との思い出の場所なの』と。


『死別っていう、1番悲しい別れ方だったんだけどね』と、笑って付け足した。



いつまでも引きづって、女々しいと思われるかもしれない。
それなりの覚悟を持って君の返答を待っていたら。



『無理して笑わなくていいよ』と、優しい答え。


『大切な人を亡くして、平気な人なんていねー。泣きたいときには思いっきり泣けばいい。しばらくは辛いかもしれねーだけど、その先には笑える未来があるはずだ』




君が、女々しい、と思う人じゃないことをわかっていた。


君に"彼"の面影を感じた理由がわかった。


麗しいほどの温かさや優しさがあるからだ。
見た目は何一つ似ていないのに、心の温かさや優しさが滲み出ているところ、そっくり。



目を瞑って、こぼれ落ちる涙の熱さを感じた。



──『梨花っ!』
私の名を呼ぶ無邪気な声も。


──『俺、すっげー梨花のこと好きだなぁ』
私に向ける眩しい笑顔も。



大切な大切な思い出は蓋をしなくても、仕舞わなくてもいいんだ。
そう思って、心が楽になった。


目を開けると、澄み渡った青空を背景に、春風に乱れたように美しく舞う桜の花びら。
色付いた世界はこんなにも美しいのかと、その日見た景色は私の心に強く刻まれた。



その日以来、次第に悲しみや苦しみは薄れ、少しずつだけど綺麗に過去を振り返ることができた。