自分でも不思議だった。


人懐っこい笑顔も、無邪気な声も、君は持っていないのに。
どうして君に、"彼"の面影が見えてしまうんだろう。





君と初めて会ったのは、空も地面も、心も灰色だった日。


"彼"との思い出溢れる、河原の桜並木。


冷たく乾いた風が、ぽっかりと空いてしまった心を吹き抜ける。
まだ積もった雪が溶け切っておらず、寒さを増させる。
蕾をつけ始めた桜の木々がそれを開くのは、きっともう少し先。




────どうして、隣にいないのだろう。


ふと浮かんだ疑問が、じわじわと心を侵食するように広がっていく。



ここの景色は変わらないのに、どうして"彼"は私の隣にいないのだろうか。


当たり前だったはずなのに。その当たり前は、一瞬で脆く儚く、散った。


泣きたかった。でも、泣けなかった。
泣けるほど、現実を受け入れることができなかったから。





"彼"がいなくなってから、広がる灰色の世界。
それはこれから変わることはないのだろうか。



会いたい。もう一度だけでもいいから、会いたい。


...それは、叶わぬ願い。



もう一度会えたら、離れぬようぎゅっと抱きしめるのに。




そっと目を瞑ったそのとき、暖かく優しな春風が頬を撫でた。


瞼を上げ、もう一度閉じ、再び開けるとそこには────"彼"がいた。.......ような気がした。


目が合ったその人は、『えっと...』と不器用に目を逸らした。



.......違った。
何も、似てない。


でも、どうしてだろう。


少し悪い目つきも、明るく茶色に染められた頭も、何一つ似てる要素がないのに、"彼"を感じてしまった。




『...なん、ですか?』

『え、いや.......綺麗だなって』

『え?』

『あ、桜! 桜だから! ナンパとかじゃねーからな!?』




君に"彼"の面影を感じた理由がわかったのは、少し後のことだった。