「...って、今はそこじゃなくて」
「そうだな。.......涼太はこれを見て、避けるようになったのか?」
「ショックを受けたとか.......?」
確かに、私たち"幼なじみ"の枠にはどうしたって入ることの出来ない涼太。
今まで私たちが光太朗と築き上げてきた時間と、涼太との未来が交わることはない。
でも、だからといって、避けることはしないだろう。
それを受け入れてくれていたし、そんなことをする人じゃない。
「じゃあ、どうして.......?」
呟いた声は、重みを持った空気に沈んで消えた。
空を飛ぶ鳥の鳴き声、風に揺れる葉の音が耳につくほど、暗い沈黙が流れた。
霧に包まれたものは耳の底で震えて、じーんと響く。
「.......そもそも涼太は、なんで転校してきたんだったか?」
水平になっていた口の形を崩したのは悠馬だった。
「言われてみれば知らないかも」
「ふつーに家の都合じゃないの?」
「いや.......わかんないな」
今年の春、涼太は転校してきた。
光太朗の事故から、ちょうど季節が1周回ったときだった。
だからかもしれない。
運命だなんて思ってしまったのは。
「じゃあ、涼太がどこから転校してきたか知ってるか?」
「.......ううん」
「知らない.......」
悠馬の質問に答えて、私は私自身を蔑んだ。
私、涼太のこと何も知らない。
一緒にいた間、涼太の何を見てきたんだろう。
3人ともきっと同じことを思っている。
また口を開いて、傷つきたくなったのだろう。
息苦しいほどの沈黙が再び流れて、それが破られたときは話題は無理矢理変わっていた。