はじめて入る中央高校はさすが県内公立校偏差値一位の座にあるだけあって、校舎内は広く、充実していた。
自習室という札が掲示される教室横を通り過ぎたのは2度目だ……帰りもしっかり案内してもらわないと迷いそうだ……
「あ、いた」
速度を緩めた広樹くんに合わせて、忍者のような忍び足モードに変える。
完全に立ち止まったのを見て、彼の視線の先を次いで追った。
「―――だから、ごめんな」
あ、横澤の声。
辺りが暗くて見えづらいが、制服姿の彼がこちらに背中を向けている姿が見える。相手の女の子は彼の対面にいるせいか、今の位置からは確認できない。
「そっかあ。好きな人がいるって本当なんだね」
次いで、確実に聞いたことのない女の子の声は衝撃発言を落とす。
すきな、ひと。
思わずごくんと生唾を飲み込んでしまった。