ストーカーを殺せ


やばい、寝坊した。

今日は超有名アイドルの、グラビア撮影だってのに。
やっと掴んだチャンス。カメラマンとして名を上げるための大事な仕事なのだ。

俺はベッドから飛び起きて、猛ダッシュで支度すると、商売道具が入った重いカメラバッグを担ぎ上げた。

「コースケ、朝ごはんは?」

ベッドから半身を起こした美咲が、目を擦りながら眠そうな顔で俺を見る。

「いいよ、どっかコンビニでも寄って買うよ」

美咲が作る絶品のスクランブルエッグを食べたいが……。
家で朝食を済ませてから仕事行くのが習慣になっているので、どこか落ち着かない気もする。

美咲と朝食を一緒に食べるのは、これまで当たり前のように続けて来た、日常の一部でもあった。
それを欠くのは、ゲン担ぎじゃないけど、何か良くない事が起きるような、そんな引っかかりを覚える。

「じゃあ、行って来るよ」

「気をつけてね」

玄関のドアを開けたとたん、薄暗い曇天の空から冷たい木枯らしがびゅっと吹き付け、思わず身震いした。
吐く息も白い。このところ、急に冷え込みが増してきた。

もうすぐ12月。
俺は冬が苦手だ。寒いとハヤブサに乗るのも辛いのだ。

両手をこすり合わせて暖めながら、エレベーターに乗り込む。

腕時計を見ると、7時すぎ。
三鷹から代官山のスタジオまで、電車で40分くらいか。
スタジオ入りは8時だから、ぎりぎり間に合いそうだ。

4階で、がこんと音を立ててエレベーターが止まった。
ドアが開いて男が乗り込んで来る。

「やあ、おはよう」

その声に、どこか違和感を感じながら顔を上げたとたん、俺は固まった。

目の前に……。

俺がいる!

髪型、顔かたち、体型。
まるで鏡を見ているようだ。
そして、その声までも、俺の声にそっくりだ。

「なっ!?」

「お久しぶりだね」

にやついた表情で、すぐに気がついた。

あいつだ。

ついに、目や声帯までも整形したのか。
どこからどう見ても、「俺」そのものに変貌していた。

エレベーターの扉が閉まり、がこんと動き出す。

「ど、どういうつもりだ!」

俺は身構えて、あいつを睨みつけた。

「ついに、この時がやってきたってことかな」

あいつは、にやにやした表情を顔に貼り付けたまま、エレベーターの緊急停止ボタンを押した。
ふたたび、がこんと音を立てて、エレベーターが2階付近で停止する。

「何をする……?」

「楽しいショーの開幕だよ」

そう言いながらゆっくりと、ポケットから何かを取り出した。
赤いボタンが付いた小さな黒い箱だ。

「それは何だ」

「君の人生を変えるスイッチさ」

あいつは片側の口角を吊り上げて不気味な笑みを見せると、赤いボタンをポチっと押した。

そのとたん、耳をつんざくようなドカンという轟音とともに、エレベーター全体が激しく揺れ動き。

そのまま落下した。

一瞬の後、激しい衝撃とともに、あいつと重なり合うようにエレベーターの床に叩き付けられ。

俺の意識は、そこでぷつんと途絶えた。





ゆっくりと目を開ける。

頭の中は、まだ霞がかかっているようだ。
ぼんやりとしていて状況が飲み込めない。

そこは薄暗く、さほど広くない部屋の一室だった。
壁の上の方に小さな窓があり、そこから僅かに陽の光が差し込んでいるが、この位置からだと外の様子はうかがえない。
反対側の壁には、ドアノブの付いた扉がある。

部屋の中央に置かれた、木製の肘掛け椅子。
そこに、俺は手足をロープで縛られた状態で座っていた。

目の前には、なぜか大型の液晶モニタ。
電源は入っておらず、何も映し出されていない。

それ以外、部屋の中には何もなく、がらんとしている。
くすんだコンクリートの白い壁は、ところどころ染みやヒビが見られ、ここは、ある程度年数が経った建物の中のようだ。

今、何時だろう。

腕時計を見ようとして、無くなっている事に気がついた。
誕生日に美咲からもらった、大切な腕時計なのに。

体を動かそうとするが、椅子にきつく縛り付けられていて、びくとも動かない。
椅子自体も床に固定されているようだ。

エレベーターの床に叩き付けられた時に打ち付けたのか、頭と腰が痛む。

「おーい」

大声を上げてみた。

「おーい、誰かいますかー!」

だが、あたりはしんとしていて、何の反応も返ってこない。
窓から微かに、外を行き交う車の走行音が聞こえるだけだ。

なんだ。
これは、いったいなんなんだ。

あいつに、嵌められたのか。

考えを巡らせていると、突然、モニタの電源が入った。

映し出されたのは、ベッドに横たわる包帯が巻かれた男の頭。
そして、ベッド周辺に置かれた計器やら点滴やら。

どうやら、そこは病室らしい。
カメラはベッドの枕元に置かれているらしく、広角レンズで病室全体を映し出していた。


頭が動き、ベッドに横たわったまま、ゆっくりとカメラの方に向き直る。

そこには、俺の顔をした、あいつがいた。

『やあ、そっちの居心地はどうかな?』

俺は思わずモニタに向って、怒りを込めて叫んだ。

「おいっ! どういうつもりだっ!」

あいつは、片手を耳に当て、うんうんと頷く仕草をする。

『なるほどなるほど。怒っているようだね。だけど、ごめん。そっちにはマイクがないから何も聞こえないんだ』

あいつは毛布から手を出して、腕時計を眺める。
俺の腕時計だ。

『あ、これね。貰っておいたから。君のスマホや財布もね。これで俺はすっかり葉山浩介、だね』

ふざけるな! とモニタに向って叫ぶが、あいつには届かない。

『いやあ、大変な『事故』だったね。まあ、あのマンションのエレベーターは元からガタがきてたから、落下事故が起きても不思議は無いよね。仕掛けがあったなんて、誰も疑わないよ。さてさて、お楽しみはこれからだ。よーく見ててね』

あいつはカメラに向ってウインクすると、仰向けに寝転がる。
そこへ、手に袋を持った美咲が心配そうな顔で病室に入って来た。

『とりあえず売店でタオルとか日用品、買って来たよ。どう、痛みは?』

『うん、頭がちょっと痛むけど、大丈夫だよ』

美咲はベッド脇の椅子に腰を下ろし、涙ぐんでいる。

『ホントに心配したんだから、コースケ』

違う!
そいつは、俺じゃないんだ!

『ただ、頭打ったせいか、記憶がちょっと曖昧なんだよな。勿論、美咲のことは覚えてるけど、他の事を思い出そうとすると、霞がかかっているというか、何も思い出せない』

白衣を着た医者が、病室に入って来た。
いや、医者じゃない。

ボサボサの髪の毛。ひっきりなしにぎょろりとした目を動かしている。

こいつは、殺し屋派遣ネットショップの『ニセ医者』だ。
カナが入院した時に襲って来た、ヘタレの殺し屋。

『や、や、や。ぐ、ぐ、ぐ、具合はど、ど、ど、どうですか』

美咲がニセ医者に頭を下げて挨拶する。
当然ながら偽者だと知るはずもない。

『先生、このひと記憶を無くしているみたいなんです。大丈夫なんでしょうか』

『あ、あ、あ、あ、頭を打ちましたからね。おそらく、いちいちいち、いち時的な記憶障害でしょう』

『治るんでしょうか』

『な、な、な、治りますとも! いや、治らないかも!』

どっちなんだよ。

『と、と、と、とにかく。軽い打撲はありますが、骨折とか内蔵損傷は見られないので、に、に、に、にさん日で退院できるでしょう!』

よかった、と美咲が胸を撫で下ろす。
ニセ医者は、軽く頭を下げると、かくかくした動きで病室を出て行った。

『……美咲、ごめんな。心配かけて』

あいつが、しおらしく美咲に声を掛ける。
美咲は不安そうに、あいつをじっと見つめていた。

『……こっちへ、おいで』

あいつが両手を伸ばすと、美咲はゆっくりと立ち上がり、その腕の中に体を沈み込ませる。

や、やめろ。
やめてくれ!

そして、あいつは美咲の髪を撫でながら、もう片方の手を顎にそっと添えると、顔を寄せ。

美咲にキスをした。

それは濃厚な、長い長いディープキス。

なんで、こんなことが……。

次の瞬間、モニタの映像はぷつんと切れて、真っ暗になった。

俺は、頭の中が真っ白だった。

ロープをほどこうと必死に手を動かしてみるが、びくともしない。

気がおかしくなりそうになりながらバタバタもがいていると、ふいに、モニタが再度ついた。

『やあ』

あいつだ。
美咲の姿は見えない。

『君と話したいから、美咲ちゃんには水を買いに行ってもらったよ。あれ、とっても怒ってるかい? そうだよねえ、暴れたい気持ちもわかるよ。でも、これでわかったかな? 君と俺は、完全に入れ替わったってことをさ。そうそう、美咲ちゃんの唇、やわらかくって最高だね!』

モニタの中のあいつは、バカにしたように舌を出す。

『さて、ここまでは前菜。実はここからが、最大の見せ場なんだ。だから、チャンネルはそのままでね!』

しばらくして、ペットボトルを手にした美咲が病室に戻って来た。

『はい』

『ありがとう、美咲』

ペットボトルを受け取りながら、あいつが妙にしおらしく答える。

『……あのさ、美咲』

『なに、なんか他に欲しいものある?』

『いや、そうじゃないんだ。実は、色々思い出して来た。それでな、美咲にどうしても話さなきゃいけないことがある』

『どうしたの、改まって』

あいつはそこで一旦口をつぐむと、目線を美咲から背けた。

『何よ、話してよ』

美咲は少し不安そうな目で、あいつをじっと見つめてる。
やがて、あいつの口から発せられた言葉に、俺の心臓は跳ね上がった。

『美咲、別れよう……』

美咲は、驚いた表情で声を上げる。

『え、どういうこと!?』

『これまでずっと、言えなかった。実は他に好きな子ができたんだ』

『ちょっと、冗談はやめてよ』

『本当だ。だからもう、美咲と一緒にいることはできない』

『そんな……』

美咲は目を大きく見開き、口が半開きになっている。
それは、俺も同じだった。

『カナっていうんだ。女子高生だよ。夏から付き合っている』

『女子高生? コースケ、何を言ってるの?』

『美咲が知らないところで、ずっと会ってたのさ。もう、隠れて付き合うのは限界なんだ。俺はカナを愛している。だから、美咲とはこれで終わりなんだ』

美咲の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。

『ねえ、コースケ。嘘だと言って。冗談だって言ってよ……』

『美咲、本当にすまない。これまでありがとう』

あいつは、キッパリとした口調でそう言い放つと、全てをシャットアウトするように顔を背ける。

美咲は涙をぬぐおうともせず、暫くあいつを見つめていた。
そして、二、三歩後ずさりすると、踵を返し、俯きながら早足で病室を出て行った。

モニタ越しのその空間で、今、この瞬間、目に見えない大切なものがなくなってしまった。
映し出される画像に変化はないのに、明らかに、そこから消え失せたものがある。

俺は、放心状態でその様を眺めていた。

いつしか、モニタの電源が切れたのにも気づかずに。





あれから、何時間経っただろう。

俺はずっと、考えていた。

あいつは、美咲のストーカーだった。
周到な計画を立てて俺と入れ替わり、ついに美咲を手に入れた。
思いを遂げたんだ。

しかし、その直後にあいつは美咲に別れを告げた。

なぜなんだ。

すぐに別れるのなら、なぜこれほど長期間に渡ってストーキングしてたんだ?

わからない。

ロープが食い込んだ手首からは、血が滲んでいた。
だが、痛みは感じない。
俺はすっかり脱力感に包まれ、全ての感覚が失われつつあった。

ぷつんと音がして、ふたたびモニタの電源がつき、あいつの声が耳に飛び込んで来た。

俺に向って話しかけているのかと思ったが、そうではない。
大声で電話を掛けていた。

『……もしもし、『バイク買い取り宇宙ナンバーワン、超高価買い取り、即日ニコニコ現金払いのバイクキング』さんですか? バイクを売りたいんすけど。てか、タダでいいんで、すぐに持ってってもらえます? ハヤブサってバイクです。とっとと処分したいんです、はい。住所は……』

病室の入り口に佇んでいる人影が目に入った。

制服姿のカナだった。

カナは心配そうに眉を歪め、もじもじしながら、ゆっくりとあいつに近づく。
あいつは電話を終えると、カナの姿に気づいた。

『なんだ、おまえか』

『……具合、どうなのさ』

『別に? なんでもない』

あいつは、そっけなく答える。

カナは後ろ手で持っていた紙の包みを、あいつに差し出した。

『なんだ、それは』

『……福神漬け』

『なんで、福神漬けなんだ』

『好きだって言ってたから』

確か前に、カレーの付け合わせに福神漬けは最高だ、と言った覚えがあるが。
福神漬けだけ持って来るところが、いかにもカナらしい。

『そんなものは、いらん』

あいつは、差し出された袋をはねのけた。
カナは床に散らばった福神漬けに目を落とす。

『どうした、オジサン』

『ふん、どうもしねえよ』

『また、記憶なくしたとか?』

『そんなわけねえだろ』

『なんか、雰囲気が違う』

『当たり前だろ? エレベーターが落下したんだ。叩き付けられて、からだ中が痛いんだよ!』

カナは心配そうに、大きな目でじっとあいつを見つめている。

『……ハヤブサ、売っちゃうの?』

『あんなもん、もう必要ない。飽きたのさ』

『ずっと大事にしてたじゃん』

『うるさいな、大きなお世話だ。この際だからついでに言ってやる。おまえにもうんざりなんだ。これまでおまえに関わって、ろくな事がなかった。もう、こりごりだ』

あいつはカナを睨みつけ、吐き捨てるように言った。

『……オジサン、本気で言ってる?』

『ああ、本気だとも! ずっと迷惑してたんだ。いつまでも俺のまわりをうろちょろしやがって、目障りにもほどがある。これ以上、おまえのお遊びに付き合いきれん』

『……』

『だいたい、俺がおまえのことなんか、好きなはずないだろうが!』

カナは無表情だった。
いや、俺にはわかる。
あいつは、すごくショックを受けている。

『……わかった。本当にこれまで、かたじけなかった』

かたじけない、の使い方が、間違ってる。

『ああ、二度と顔を見せるなよ』

カナはごそごそとカバンからアマテラス猫のお守りを取り外すと、あいつに突き出した。

『なんだ、これは?』

『……』

『こんなもん、いるかよ!』

あいつは、お守りをひっ掴むと、病室の奥へと放り投げた。

カナは床に転がったお守りを、暫くじっと見つめていた。
そして、何も言わずに、病室から駆け出ていった。





小窓が強い風で、カタカタと鳴り続けている。
この部屋の唯一の光源であるが、その明るさも次第に弱まりつつあった。

あれから、どれだけ時間が経過したのか。

不思議と喉が乾いたり、腹が減ったりとか、トイレへ行きたいといった生理的な感覚が湧いてこない。

人間、とことん追いつめられると麻痺するらしい。

あいつは、俺から美咲を奪った。

そして、カナ。

ハヤブサまでも。

大事な仕事も、すっぽかすこととなってしまったので、もう二度とこんなチャンスは巡ってこないだろう。

全てを失った。

やれやれ。

こんな最悪な状況なのに頭に浮かんだ言葉は、それだけだった。
怒りや、悲しみや、悔しさや、絶望。ありとあらゆる負の感情を超越した言葉。

「やれやれ、だ」

口に出してみると、心なしか気分が少し和らいだように感じる。

目の前のモニタはついたままだ。
スマホのメール画面が、映しだされている。

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件名:【殺し屋】発送のお知らせ

本文:

毎度ありがとうございます、【殺し屋】派遣ネットショップです。

【葉山浩介】様よりご注文頂きました【殺し屋】を本日発送しましたので、お知らせします。

お届け予定時間:1時間以内

お届け先:あなた

お届けする【殺し屋】:ゆるキャラ

返品、交換は一切受け付けられませんのでご了承ください。
ご不明な点につきましては、【葉山浩介】様にお問い合わせください。

またのご利用をお待ちしております。

※このメールアドレスは配信専用です。このメッセージに返信されても回答しかねます。

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やれやれ。

もう、どうにでもなれ。

ガチャリ、とドアノブを回す音がした。
ひさびさに感じる、人の気配。いや、凶悪なペンギンか。

ドアがゆっくりと開いて姿を見せたのは、やはりというか、毛むくじゃらの巨大な着ぐるみだった。

「ちーっす」

愛らしい大きな瞳のペンギンから発せられる、だるそうな声。
手には魚の形をした鈍器。

その凶器をくるくると振り回しながら、奴はゆっくりと俺に近づく。

「配達に伺いましたー」

俺は、目の前にそびえ立つペンギンを見上げた。

「ああ、とっとと済ましてくれ」

「まじっすか。今日はずいぶん素直っすね」

「もう、どうでもいいのさ」

「駄目っすよ、人間、最後まで生きるために必死でもがかねえと。『死中求活』って言うでしょ。アーネスト・ヘミングウェイも言ってたじゃねえっすか、『世界は美しい、戦う価値がある』ってね」

殺し屋に、説教される俺って。
てか、意外と博識なんだな。

ペンギンは頭を傾げると、ふうと息をつき、ゆっくりと魚を振り上げる。

俺は目を瞑った。
これで終わりだ。何もかも。

耳元で、びゅっと言う鋭い風切り音が聞こえた。

そして、激しい破壊音。

あれ?

目を開けると、粉々に破壊されたモニタが床に転がっていた。
予期せぬ攻撃に驚いたかの如く、画面がぱちぱちと点滅していたが、やがてすっかりその機能を停止した。

なにがなんだか、わからない。

ペンギンは、壊れたモニタをつぶらな瞳でじっと眺め、やがて魚を放り投げた。

「……どういうことだ?」

「埼玉に新しいアミューズメント施設ができるの知ってます? 『ゆるキャラドリームランド』って言って、全国のマイナーゆるキャラが集結するんすよ」

話しながら、だるそうに頭をぐるぐる回すペンギン。
ポキポキと音が鳴る。

「俺、そこに採用されたんす」

「それは……おめでとう」

「なので、もうこんな稼業は辞めるんだ、俺」

いつしか、着ぐるみから発せられる凶悪なオーラが、消え失せていた。

「ゆるキャラなんか、もうオワコンだからこの先どうなるかわかんねえっすけど、とりあえず精一杯やってみるっす。あんたも何をされたのか知らんけど、頑張って生きて下さいよ。『人間万事塞翁が馬』ってね。いいことも悪い事も、いろんな事が待ってるのが人生ってやつっすよ。あきらめちゃ終わりだ」

着ぐるみは俺を見下ろしながら、相変わらず気だるそうな話し方でそう言った後、肩をすくめてドアへと向って行った。

俺はその背中に向けて声を掛ける。

「……おい、あのさ」

「なんすか?」

「どうせ助けるなら、このロープも解いてくれないか?」