おばあちゃんを起こさないようにして、そっと脱衣所を出た。

 今すぐミサイルが飛ぶことはないだろうと考えて、昨夜できなかったお米を研いだ。

 今は通電中だから、ご飯が炊ける。あと二時間で停電になってしまうから、できることを今のうちにやっておかなくては。


 冷蔵庫を開けて、食材をチェックする。おかずの作り置きを三品程度作って、お味噌汁も夜の分まで作らないと。

 時計を見ながら大急ぎで準備する。

 脱衣所からラジオを持ってきて、キッチンの隅っこに置いた。

 もしまた不気味なサイレンが鳴ったら、すぐ調理をやめて脱衣所へ戻らなくてはならない。自分とおばあちゃんを守るために。

 昨夜、おばあちゃんから「綺羅が居て良かった」と言われたことを思い出す。

 こんな時だからこそ、おばあちゃんの力になりたい。

 今となっては、私のたったひとりの肉親だから。

 優理君のお母さんも、もしかしたらこんな時だから、我が子に逢いたくなったのだろうか。

 病気で心細い上に、先の見えない世の中への不安感。

 だけど、不安な気もちになっているのは、残された子どもの方だ。

 私達はお母さんと離れてから、ずっとずっと不安と向き合ってきたのだから。