受話器をそっと置いて、メモを見た。
守屋君が伝えてくれたお蔭で、私は明日、あの子達から責められたり同情されなくて済む。古びた電話機に感謝した。
自分の部屋で、明日の準備をしてから勉強にとりかかった。
暗記科目は得意だ。そしてどちらかと言うと、私は目で見て覚えるより耳で聴いて覚える方が得意だった。
母親に『これ以上あんたを育てられない』と言われて捨てられたとき、私はボロボロになって児童相談所へ保護された。
児童相談所に保護された子どもは大抵、知能検査を受けることになっている。
私のIQは悪くなかった。具体的な数値はそのとき教えてもらえなかったけれど、後からおばあちゃんに検査結果の紙が手渡された。
好奇心から見せてもらったそれには、IQ121と書かれていた。特にワーキングメモリの高さが突出しているとも記されていて、私はそれを見て生まれて初めて両親に感謝した。
生まれる家や親は選ぶことができない。子ども自身が生まれ育つ環境を変えるには、勉強を頑張ることが一番だと、児童相談所の心理士さんに言われた。
私はその時、小学校四年生だった。
あれから六年。おばあちゃんの家で勉強を頑張りながら静かに暮らすことで、幸せな大人になれると思っていた。
昨日まで、私はそれを信じて疑わなかった。