『それ、ラジオでも言ってたけど、俺もきっと違うと思う。だいたい、中国を混乱させるために日本が拉致なんて仕掛けても、いいことはひとつもないだろうし』
ここまで話したところで、ラジオから緊急放送を知らせる不快なチャイムが響いた。
「何だろう。私、この音、嫌いになっちゃったよ」
『誰も好きじゃないよ。でも大事な話らしいからこのまま電話切らないで聴こうか』
「うん」
さっきまで強い口調で日本の主張を繰り返していたキャスターが、低い、緊張した声で語り始めた。
「速報です。政府関係者によりますと、先ほど終わった電話首脳会談では、日本側の主張と中国側の主張が真っ向から対立し……」
最悪の事態である、ということを言っているのだろう。
最初、低めのトーンで話していたキャスターが、次第に興奮したような声でニュースを繰り返した。
日中平和友好条約は、一方的に破棄されてしまったと。