『ああ。何となくそんな気がしていた、っていう程度に。両親は驚いていたよ。だって俺、この家にもらわれた時、まだ三歳になったばかりだったから。その頃のはっきりした記憶なんてないだろうって思ってたらしい』
子どもの頃のはっきりした記憶には、かなりの個人差があると以前テレビで見た。一歳から記憶がある子、四歳程度からの記憶が残っている子、さまざまらしい。
優理君は以前、この家に「もらわれる」前の記憶を語ってくれた。
私の知っている児童相談所と同じ建物で、テレビを見たこと。
ご飯がいっぱい出てきて驚いたこと。
そして、同年代の子ども達と「おいしいね」と言いながらご飯を食べたこと。
それからしばらくして、今のお父さんとお母さんが「迎えに来たよ」と言って、家に連れて行ってくれたこと。
大きな家で食べた最初のご飯は、お母さんの手作りのハンバーグだったこと。
おいしいよって言ってもりもり食べる優理君を見て、お母さんが泣いたこと。
どうして泣くのか聞いたら「嬉しいから」と言われて、不思議な気もちになったこと……。