『こんな社会情勢だから、ろくな治療も受けられなくて、このままだと危ないそうだ。で、何とかして俺と会いたい、できれば引き取りたいって言いだしたんだってさ。今更って感じだけどね』
「それで、どうしたの?」
『母は怒って追い返したよ。家中に聞こえる大声で、優理はもう私の子どもですから、あなた達には絶対に渡さないって。おいおい、俺、養子だってことを知らない設定なのに、これじゃあバレちゃった演技までしなきゃならないと思った』
「大変、だったんだね」
『まあね。断ったんだけど次の日、また来たんだ。父がいない時間帯を狙ってるみたいだった。子どもが外に出ちゃいけないっていうルールを逆手に取って、俺が絶対この家にいるのだから会わせろって』
……修羅場、だったんだろうなと容易に想像できた。
ひとりで対応しなくてはならなかったお母さんと、隠れることしかできない優理君、小さい弟と妹もパニックだろうし、何より優理君自身が一番混乱していただろう。