『そう、だよな。ちょっと病院に泊まり込んでて、掛けられなかったんだ』

「どうしてなのか、聞いてもいい?」

 資格も何もない高校生の優理君が、泊まり込みで働いていたというのは考えにくい。

 何かトラブルがあったのだろうということは、松本君からの電話で分かっていたけれど、本人の口から聞きたかった。

『えっと、何から話せばいいんだろうな……』

 優理君はひとことひとこと、ゆっくりと選びながら語りはじめた。いつもより少し声が小さいのは、家族に聞こえないようにという配慮だろうか。


『秋分の日、俺の父親だと名乗る男が自宅に来た。俺に会わせてくれっていう話だった』

「本当のお父さんに会ったの?」

『いや、母が対応して俺には出てくるなって一言。俺、実の父親のことはほとんど覚えていなくてさ。父親と一緒に生活したことはなかったし』

「うん。それで、どうして今頃来たの?」

『父親が言うには、実の母親が病気になったらしい』

「え?」