『当事者じゃないとわからないことって、結構あるよな。転校もそう、多分、優理や安本さんの家庭の事情もそう。俺の家は転勤族ってだけで割と恵まれてると思ってる。優理は一見恵まれているけれど、実際どうなんだろうな。ま、今日中に電話がかかってくると思うよ』

「うん。ありがとう。私、松本君とこうやって話ができてよかった。賑やかなお母さんと妹ちゃん達の誤解、早く解けるといいね」

 そう言ったら、大きなため息が電話越しに聞こえた。そして。

『……じゃあさ、うちの親に説明してくれる?』

「いや、遠慮します」

『誰のせいだよ一体!』

「私のせいです。すみません」

『じゃあ、優理のフォローよろしく。またな』

 そう言って、電話は切れた。

 受話器を持ったままちょっと笑って、そしてすぐにそれを置いた。

 優理君からの電話を待つために。いつもは夕食後だけれど、もしかしたら早くかけてくれるかも知れない。そんな期待をしつつ、古びた電話器を眺めた。