『だからさ、ずっと俺は転勤なんてなくなればいいって思ってた。父が管理職になるってことは、ほぼ二年おきに転校するってことが確定な訳。俺、人付き合いあんまり上手くないから、自分から声をかけるとかできなくてさ。しんどかったなぁ』

 しんどい、という松本君には珍しい弱音を聞いてしまったので、私もつい、言わずに済まそうとしていた自分の過去を語ってしまう。

「わかるよ。私も一度だけ転校したけど、初日に付いてきてくれたのが当然おばあちゃんでね。何でお母さんじゃないのって早速聞かれたもん。もう、そこから号泣。転校初日に、相手からしたら何がいけなかったのかわからない会話で号泣しちゃう転入生なんて、避けられて当然だよね」

『あー、それは安本さんにとっての地雷だけど、初対面の子どもにとってはちょっとわかりにくい、かもな』

「新しい担任の先生が一生懸命フォローしてくれたんだけど、それを聞くのも辛くてまた泣いて。あれは私の暗黒の時代だったな」

 今でこそ笑って言えるし、優理君にも笑いながら電話で話したネタだったけれど、当時は本当に辛くて、どうして自分ばかりがこんなに苦労しているんだろう、なんて考えていた。