電話の線を最大限に伸ばし、あまり広くない市営住宅のリビングを抜けた。

 その先にあるベランダまで何とか届いたので、電話機と自分の身体だけ外に出して、ベランダの窓を閉めた。これでおばあちゃんに迷惑はかからないはず。

「外に出たよ。ちょっと寒いかも」

 私達は普段外に出られないから、洗濯物を干す昼間だけこのベランダに出ることが許されていた。

 でも、昼間とは違い、日が沈んだこの季節はもう、こんなに涼しくなっているとは。

『そこから月は見える?』

 受話器を持ったまま、外を見た。

「……見えた! まんまるだね! 今日って十五夜?」

『そう。晴れてるから、いつもの年なら月がよく見えるはずなんだけど。今年はおまけがいっぱいあるからなぁ』

 優理君の言う「おまけ」が、また月の周辺で煌めきながら動いていった。人工衛星の流れ星は、以前よりもっと見えるようになった気がする。

「今、月のちょっと下を流れてたよね」