「……ごめ、んね。これ……」
ポケットから鍵を出した。顔を上げられないまま、テーブルの上にそれを置く。
「じゃあ、ここから出よう。暗くなってきたから大丈夫だよ」
彼の言う『大丈夫』は、泣き顔を周りに見られる心配はない、という意味なのだろう。私のメンタルはちっとも大丈夫ではないけれど、ここまで気を遣わせてしまって申し訳ないなと思った。こうやって迷惑ばかりかけている自分の存在が本当に嫌になる。
私は下を向いたまま、ゆっくり立ち上がった。床に置いたリュックを背負い、涙で顔に張り付いてしまった髪を整える。泣きはらして不細工この上ない顔になっているだろうけれど、ちゃんと彼にお礼を言わないと。
「守屋君、ありがと……もう、大丈夫」
目の前にいる彼は、明らかに困った顔をしていた。黒縁の眼鏡を上げて、切れ長の目をより細めて私を見ている。
「全然大丈夫じゃなかったね。でもここは出ないと」
外に出ると、綺麗な夕焼けが建物の隙間から見えた。
ここは世界屈指の夕日が美しく見える街らしい。けれど、夕日なんて世界中どこで見ても同じではないだろうか。そんなひねくれた考えをもつほど、とげとげしい気分だった。