「うん。ちょっとずつ、楽しいことを考えて、そこまで耐えるの。まずは明日、私の誕生日会をするでしょ? それから、一花の誕生日ももうすぐだよね」

 震える背中を抱きしめた。
 こんな言葉、気休めでしかない。
 安っぽいかも知れない。
 でも、今の私に言える精一杯の言葉を紡ぐ。

「一花は十分頑張ってる。今がどん底だとしたら、今より悪くなることはないよ。あとは上がるだけ」

「そうだよね。日本中、今がどん底だもん。これより悪くなることはないよね」

 これより良くなる保証は全くなかった。良くなりそうな条件なんてひとつもない。
 
 どれだけ節電しても、日本の石油備蓄量はあと三か月分程度だと言われている。食糧だってこのままでは足りなくなる。輸入に頼りきっていた日本は、戦後最大のピンチを迎えていたから。

 ……核弾頭に怯える日々は、いつまで続くかわからないけれど、人間はそんなに浅はかではないと信じて暮らすしかない――。

 電話でそう言っていた優理君の言葉を私は信じようと思っている。